ホーム | ブラジル国内ニュース | 《ブラジル》連邦地裁判事=「早期治療は大統領の政治発言」=キット薬死亡事件を市警が捜査=批判高まる政権のコロナ対策

《ブラジル》連邦地裁判事=「早期治療は大統領の政治発言」=キット薬死亡事件を市警が捜査=批判高まる政権のコロナ対策

対応が注目される連邦医師審議会(Conselho Federal de Medicina)(CFM)

 14日、連邦地裁判事が「薬効が証明されていない薬品を使った早期治療推奨は大統領による政治発言」との判断を下すなど、コロナ禍をより深刻化させたとして連邦政府が推奨する「コロナ感染症キット」への批判が高まっている。また、決定的な治療法を欠くコロナ感染症に対し、国家衛生監督庁(Anvisa)が新たな治療薬の緊急使用を認めたと20日付伯字サイトなどが報じた。
 14日には、連邦直轄区連邦地裁のマノエル・ペドロ・マルチンス判事が、「薬効が証明されていない薬品を使った早期治療推奨は大統領による政治発言」との判断を下した。また、南大河州やアマゾナス州で起きたヒドロキシクロロキン吸入による死亡事件は、市警や検察が捜査を行っている。
 ボルソナロ政権は、クロロキンを軽症のコロナ感染症患者にも使用する事や、保健省サイトに掲載したコロナ感染症キットの積極的な使用を勧めてきた。だが、クロロキンを含む感染症キットの薬品は効用が証明されておらず、世界保健機関もAnvisaも使用を推奨していない。
 3月以降はさらに、感染症キットの薬を使い、重症化してから受診したために治療が困難な患者の増加やこれらの患者が死亡したり、後遺症で悩む例、ヒドロキシクロロキンを吸入させた患者が死亡したといった報告が続き、感染症キットへの批判が一段と高まった。
 感染症キットの薬を積極的に使っていると称賛していたサンタカタリーナ州パシェコ市を7日に訪問したボルソナロ大統領は、具体的な薬品名を明言せぬまま、早期治療の必要を再度強調した。

 大統領がパズエロ前保健相に命じてクロロキンを治療薬に加えさせた事や、軍の機関でクロロキンを大量生産させた事は周知の事実だ。
 シャペコ市の死亡率は同州や全国の死亡率以上で、2月に行ったロックダウンにより、医療崩壊を抜け出した事も明らかにされている。Anvisaは同時点で、感染症キットを使用後に死亡した患者9人の資料の分析を始めている。
 さらに、3月23日にはブラジル医師協会(AMB)が、他の諸機関と連名でクロロキンその他の薬効が証明されていない薬の使用は中止すべきとの文書を発表した。
 これに対し、連邦医師審議会(CFM)は「代替策がないなら、どの薬を使うかは医師と患者が決めるべき」という立場を表明したが、これに反対する医師達は18日に連邦検察庁に直訴し、CFMの責任などを問う姿勢を見せた。サンパウロ総合大学のブルーノ・カラメリ教授は同日、「感染症キットの薬の処方は医師の独立性の問題ではなくミス」と断言した。
 これらを受け、CFMのドニゼッテ・ジアンベラウジノ・フィーリョ副議長は19日、上院コロナ調査委員会(CPI)の公聴会で、「CFMは早期治療を推奨も承認もしていないし、コロナ感染症対策として一般にいわれる治療法の有効性も認めない」と語った。
 なお、Anvisaは20日、病院限定使用のウイルス中和抗体のカシリビマブとイムデビマブを使った抗体カクテルのコロナ感染症治療薬としての緊急使用を認めた。コロナ感染症の治療薬としてはレムデシビルに次ぐ緊急使用承認となる。