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《記者コラム》コロナ禍CPIで熱い攻防が開始する1週間

CPI全体の要となる最初のマンデッタ証言

2020年3月18日、ルイス・エンリッケ・マンデッタ保健相(当時、Estado. Foto: Carolina Antunes/PR)

 「ケンチ(熱い)な1週間」になりそうだ。4、5日には中央銀行の通貨審議会(COPOM)で再び基本金利をぐっと上げることが予想されており、下院ではいよいよ4分割された税制改革の第1段の審議や、21年度予算で大統領が拒否権を発動した一部に関する再審議が開始される。さらに先週予定されていたルーラの首都訪問も今週に延期された上に、トドメの一発が、コロナ禍議会調査委員会(CPI)の最初の証人喚問だ。
 先週、ブラジルでGoogle検索された言葉のトップは「CPI」だったと3日付エスタードA3が報じた。しかもメンサロンの時以来、過去16年間で最高数を記録した。「パンデミックにおける政府の不作為」などもトップ15位に入っている。「嫌悪部隊」(Gabinete do ódio)「オマル・アジス」「レナン・カリェイロス」などの検索数の増加も突出しているという。
 CPIが開設された27、28日、それを生中継する「TV Senado(上院TV)」という言葉の検索数は、一気に1550%も増えた。それだけ国民の注目度は高い。
 CPI証人喚問の一番目、4日(火)午前中は、19年1月から昨年4月まで保健相を務めたマンデッタ氏だ。彼は当時76%という爆発的な支持率を誇った大人気保健相だった。ロックダウンに理解があり、マスク推奨する彼は、その高支持率をねたんだ大統領と対立して辞めさせられた。もし彼が保健相を続けていたら、今とは大分変わっていただろうと言われる。
 辞めた経緯に関してすでに本が出版されており、本人は「全て本に書いた。新しい暴露話はない」と今回の証言内容を説明している。だがCPIという一人舞台であの熱いしゃべり、分りやすい比喩を多用した語りが復活すれば、国民の眼は一気に惹き付けられる。最高のトップバッターといえる。
 彼の役割として大事なのは、昨年4月当時、彼が「◎◎をしなくてはならない」「◎◎をしてはいけない」というコロナ対策注意点を繰り返し語っていたことだ。

4月27日、エドアルド・パズエロ保健相(当時、Palácio do Planalto, via Wikimedia Commons)

 パンデミック初期のうちに彼が列挙していた「すべき対処」を振り返ることで、その後のパズエロ保健相時代に何が「不作為」にされたかが明確になる。
 「不作為犯」とは、すべき行為をしなかったことにより、相手に危害を加える行為だ。例えば親が子供に食事を与えないことで、餓死させること。ひき逃げ事故を起こして、救助しなかったことで相手を死なせたことが明確な場合など。
 今回は「ワクチン入手を意図的に遅らせること」「社会的距離を批判すること」「マスク着用を奨励しないこと」などの不作為の結果が、現在のコロナ死者40万人につながった関連性が問われる。
 マンデッタが「◎◎すべき」と主張していたのに大統領が反対していて、その後の保健相にもやらせなかったことが明らかになれば、「積極的な不作為」が証明される。その後に広げられるCPIという〝扇〟の要の部分になるのが、このマンデッタ証言だ。
 この対立点が明らかになることで、後々のCPIで次のような具体的行為が問題にされそうだ。
 例えば、パンデミック中にも関わらず「感染防止行動の模範を率先して示すべき大統領が、マスクをつけずに群衆の中にはいる、密集状態を作る」「早期にワクチンを入手する機会があったのに、それを邪魔する行為を繰り返した」「早々に州政府に回すべき病床用予算を、敢えて遅らせた」「麻酔薬など集中治療室に必須の薬品類の入手が、わざと後回しにされていた」「酸素ボンベが足りなくなると分っていて、あるのに緊急送付しなかった」など枚挙にいとまがない。
 大事なのは、その不作為が違法行為であることが、証明されなければならない点だ。何をもって不作為と定義するかについて議論が分かれる部分があり、かなり難しい論争だ。レナン報告官の腕の見せ所といえる。
 4日午後には二人目の保健相、タイシ氏。彼が高名な医師として、大統領の意見とどんな点で対立して、わずか1カ月あまりで辞任することになったかが証言される。
 これを生中継する上院TVに釘付けになる国民が相当数いることが予想される。

今週の山場となるパズエロ証人喚問

 文句なしに今週の山場は5日(水)、パズエロ前保健相だ。彼だけで丸一日、証人喚問される。現役の陸軍中将であり、前任2人と違って医師の資格をもっていない。基本的な医学知識欠如などの保健相としての資格を問われることを含めて、チクリチクリと意地悪な質問が繰り返される可能性がある。
 例えば、マナウスの酸欠死以外でも現在、全伯で2回目の接種用ワクチンが不足して中止する事態に陥っている自治体が多数出ている。この原因は、パスエロが保健相を辞める間際の2月に出した「十分にワクチンは確保されているから、2回目の分をとっておかずに、どんどん1回目として使用するべし」という通達だとの批判が上がっている。
 4月29日のCBNでジャーナリスト、ヴェラ・マガリャンエスは5日を「パズエロ虐殺の日(dia do massacre do Pazuello)」と比喩した。
 というのも、パズエロは丁々発止の激論に慣れた政治家ではない。連邦政府としてはそこに心配を抱えている。場慣れした老練な上院議員たちからあの手この手で厳しく問い詰められ、感情的に高まらせるような挑発を受けて、思わず「余計なことを口走ってしまう」のを政府側は恐れている。
 彼は現役軍人であり、言われた命令を黙々とこなすの本分だ。軍事政権以上に軍人が多い現閣僚の中で、彼だけは中将、他は大将で格が落ちる。上官(他の大将や大統領)からの指令を盲目に守ることでひたすら自分の立場を守って来た人物だ。
 パズエロは先週から弁護士より「CPIでどう振る舞いうか」をじっくりと指導されていると報じられているが、マナウスのショッピングセンターをマスクなしで歩いていて写真を撮られたような「脇の甘さ」も指摘されている。「報告や問答が苦手」「口下手」などと評されることが多いパスエロだけに、「黙秘を貫く可能性が高い」との政治評論家のコメントも聞いた。
 ただし、彼は現役の軍人だ。CPIで黙秘を貫くことで「敵前逃亡した」とも揶揄されることには強い抵抗があるだろう。背後に控える軍としても、自分たちの仲間である現役中将が、政治家から寄ってたかって「虐殺される」「軍という存在の印象を悪くする」のを黙ってみているのは面白くないだろう。「大統領への忠誠」と「軍の誇り」が秤にかけられる難しい場面だ。
 やはり、5日が最初の山場のようだ。その後、6日にパズエロの二の舞を避けようと必死にワクチン集めを試みている現職のケイロガ、ANVISA会長と続く。

フェイクニュース捜査も協力

オ・グローボ紙サイト4月27日付「大統領府の〝嫌悪部隊〟がコロナ禍CPIの標的に」記事の一部(左がテルシオ・アルナルド)

 大統領はこのCPIは「季節外れのカーニバル」というバカ騒ぎに過ぎないとコメントし、さもまったく恐れていないかのように振る舞っている。だが、配下の閣僚や上議を動かしてレナンを報告官から外させようと何度も試みたり、CPIの質問事項に政敵である州知事や市長に関するものをできるだけ多く入れようと工作している。実際はとんでもなくビビり上がっている可能性がある。
 例えばこの日曜日、首都の翼南区(Asa Sul)の菓子店を訪れたボルソナロ一行は、珍しくマスク姿だったことも報じられた。口では「気にしていない」と言っても行動が全てを表している。
 ボルソナロ最大の政敵ルーラは、すでに2度のワクチン接種を終え、「このCPIは首飾りの宝石だ。レナンを応援するべく、彼に〝実弾〟を送れ」と指示していると4月29日付エスタード紙にヴェラ・ローザは書いている。CPIで悪化する大統領のイメージを2022年まで長引かせて、疲労困憊してフラフラになった状態で来年の選挙に臨ませようとの戦略だ。
 今回のCPIの特徴は、パンデミックで1年余りも活動が停止していた、フェイクニュース議会合同調査委員会の捜査内容を活用した形で進める点だ。個人的な政敵をSNSで攻撃する人材を雇って、公的資金から給料を払っているという公私混同を糾す調査だ。
 同合同調査委員会の委員長、アンゲロ・コロネル上議は「コロナCPIと調査内容を共有することは何ら問題ない」と公言している。一見、感染爆発と関係なさそうだが「ワクチンは危険」「マスクは役に立たない」などの虚報を大量発信して世論誘導してきたという部分を重んじて、協力することになった。
 CPIに合わせるように、最高裁のアレシャンドレ・モライス担当判事は、フェイクニュース捜査の期間を3カ月間延長した。
 前回の選挙では、ボルソナロ陣営のフェイクニュース攻撃に悩まされた候補者が多かった。そのため、来年の選挙に向けて、ボルソナロ家直属の秘密作業班と言われる「嫌悪部隊」(Gabinete do ódio)、長男フラビオや次男カルロスをトップとするフェイクニュースで政敵を攻撃する部隊を、今のうちに潰す戦略に出ている。
 さっそくCPIでも、同部隊の中核メンバーと見られる大統領府特別補佐官テルシオ・アルナウド・トマス、ジョゼ・マテウス・サーレス・ゴメス、マテウス・マットス・ジニスら3人を証人喚問するとの話も出ていると報道されている。
 レナン報告官はすでに、委員会職員らに「コロナ禍CPIに対するSNS上の様々な反応を調査して報告書を出せ」と指示したという。「CPIが憎悪部隊の活動に影響を受けないように注意しろ。大人しく叩かっぱなしになっていると思うなよ」と語っていると報道されている。
 この部分が始まると、選挙絡みの様々な暴露が予想され、カルロスはじめ大統領の息子たちの口座情報開示などの可能性が出てくる。ブラジルにおいてはSNSで世論を動かせる時代は終わりを告げようとしているのかもしれない。
 週末2日晩、リラ下院議長はバンジTVに出演して、罷免審議開始のタイミングに関する質問を受け、「今はまだ機が熟していない。国民が十分に街頭に出ていない。その進展および、外国からのブラジル政府批判の高まり具合による」とのコメントを出した。
 つまり、CPIの中にスキャンダルが仕込まれており、それが暴露されて国民が数十万人、100万人レベルで街頭デモを始めれば、もしくはそれに匹敵するオンラインでの動きがあれば、事態は一気に流動化するという予告を出した。

「ルーラ復活祭」オンライン講演は9万回視聴

5月1日、ルーラによるライブ講演の様子(https://www.youtube.com/watch?v=ZAqrqAA9Q6E&t=47s)

 5月1日「労働者の日」には、恒例のルーラ(PT)の講演がオンライン(https://www.youtube.com/watch?v=ZAqrqAA9Q6E&t=47s)で行われた。〝ルーラ復活祭〟が始まった。だが公開12時間が経過した時点で9万860回視聴と、見た人はそれほど多くない。
 興味深いのは、FHC(PMDB)とジウマ(PT)の二人の大統領経験者をゲストに呼んでいることだ。FHCも「我々の家族に労働収入をもたらすために経済再開が重要だが、許される範囲で徐々に行わなければ」と経済再開の難しさを語り、ジウマはコロナ対策に焦点をあて「40万人の死者と1500万人の失業者の責任はボルソナロにある。彼を追い出せ!」と呼びかけた。
 ルーラ本人もすっかり選挙演説のトーンを復活させ、「我々はここ数年、後ろ向きに歩いた。ブラジル経済は現在、2014年(ジウマPT政権時)より7%も国内総生産が減った。我々は昔世界7位のGDPを誇ったのに、ハシゴを下りて今は12位だ」と経済面に焦点を当てると同時に、ラヴァ・ジャット作戦のセルジオ・モロ担当判事攻撃も忘れなかった。
 興味深いのは「労働市場をウーバー化(uberizado)して、400万人も正規雇用契約がない不安定な労働状態になっている」ことを批判した点だ。これは、彼の右腕であるハダジが聖市市長時代にウーバー承認を市議会で押し通したことからすると完全に矛盾する。だがそのような矛盾は珍しくない。いずれ、言い訳するだろう。
 このルーラ講演の映像は「いいね」が1万1千回、「悪いね」が1万回と拮抗している。ここからは、まだまだルーラに対する抵抗が強いことが分かる。1年前の労働者の日のオンライン講演でも6万8千回あったから、25%程度増えただけに過ぎない。
 2日現在、ユーチューブのルーラ・チャンネル(2018年開設、https://www.youtube.com/channel/UCvO2BExvkAbGMsTGnEnI_Ng)は登録者が31万1千人しかいない。開設年次が明らかに遅く、PTが今までデジタル戦略にどれだけ後れを取ってきたかが伺われる。
 ちなみにボルソナロのチャンネル(2009年開設、https://www.youtube.com/c/jbolsonaro/featured)は336万人と一桁多い。先週木曜29日の定例ライブの視聴回数は32万回。現時点では、ネット上の人気はボルソナロの方が遙かに上だ。
 ボルソナロ・チャンネルの人気動画の6位までは、大統領就任以前の7年前から4年前に集中している。とはいえ、就任後の映像も7位以下ながら100万回前後を記録したものが10以上ずらりと並んでいる。彼が立派なユーチューバー大統領であることが分る。
 だが来年の選挙に向かって、「ルーラ本人を支持していないが、反ボルソナロとして支持する」という層が、これからどんどん積み重なっていくと予想される。今後1年で、どれだけ変化するかが見ものだ。
(敬称略、深)

★2021年4月27日《記者コラム》ルーラには復活祭、大統領には血祭りか?

★2021年4月20日《記者コラム》CPIの裏で二者択一迫られるボルソナロ=セントロンかゲデス財相か

★2021年4月13日《記者コラム》35万国民の死の責任は誰にあるのか?

★2021年4月6日《記者コラム》頼みの綱の軍部からも一線を引かれた大統領