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《記者コラム》二人分の命の灯が消える時

アウグストさんの死とエロアーさんの両親の嘆きを報じる4日付G1サイトの記事の一部

アウグストさんの死とエロアーさんの両親の嘆きを報じる4日付G1サイトの記事の一部

 4日、サンタカタリーナ州の保育園襲撃事件やコメディアンのパウロ・グスターヴォの死が衆目を集めた。だが、コラム子には、「エロアーさんの両親が娘の心臓を受けた女性のコロナ感染症による死を嘆いた」との報道も気になった。
 エロアーさんは15歳だった08年10月、サンパウロ市近郊サントアンドレー市で起きた元恋人による人質事件の犠牲者だ。100時間を超す人質立てこもり事件は連日報じられ、皆が無事救出を願ったが、警官がアパートに突入した時、元恋人の凶弾で失命した。
 彼女の臓器を移植された人は5人おり、心臓を受け取ったアナ・アウグストさん(51)が亡くなったと聞いた、エロアーさんの両親は娘を再び亡くしたような痛みを感じた。
 アウグストさんはパラー州在住で、4月25日にコロナ感染症で入院したが、3日に息を引き取った。臓器移植を受けたハイリスクグループであるため、病院と実家以外への不要な外出は避けていた彼女の感染経路は誰にもわからない。
 だが、エロアーさんの母アナ・クリスチーナ・ピメンテルさん(54)は、アウグストさんの死に娘を失った時同様の悲しみを感じた。15歳で亡くなった娘の心臓が今度こそ鼓動を打つのを止めてしまった。それも、生きていれば28歳の誕生日を迎える2日前に――という思いが、他人事ではない深い悲しみを呼び起こしたのだろう。
 二人分の命を紡いで来たアウグストさんと、娘を眺めるような思いでパラー州に思いを馳せていたエロアーさんの母。新型コロナの影響はこんなところにも及んでいたのかと思うと、改めて、一人一人の命の重さや日常の大切さを考えさせられた。     (み)

★2008年10月29日《ブラジル》エロアーさん殺害はアウヴェス容疑者

★2012年2月14日《ブラジル》サントアンドレ=エロアー事件の裁判開始=警察やマスコミにも責任か

★2008年10月23日《ブラジル》エロアーさんの父逃亡=アラゴアス州の殺人犯?=人質事件で身元が割れる

★2008年10月30日《ブラジル》エロアーさんの母は誘拐犯?