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安慶名栄子著『篤成』(14)

第9章  戦争、そして人種偏見の不幸

 そのころ、第二次世界大戦の影響がブラジルでも感じられるようになってきていました。その結果、日系人社会やドイツ系社会にも混乱が起き始めていました。
 日本人移民は差別の外、ブラジル兵士に酷な態度で扱われるのでした。ブラジル兵士は日本人の家はすべて調査するようにとの命令を受けていたからです。拳銃や通信機、あるいは日本やドイツ政府との関係を表すものを探し回っていたのです。
 ちょうどそのころ、ガスパール一家はセリーニャから出てサンパウロへ行くことになってしまいました。これもまた戦争の影響でした。私の父がガスパールさんの家と仕事の方の責任を任されました。
 とても寂しい、暗い時期でした。あんなにみんな一緒に幸せに暮らしていたのに。どんな戦争にもあることですが、これもまた平和という繊細な、純白な布の上についてしまった真黒な憎悪の染みでした。
 本当にガスパール家の皆さんが恋しかった。でも、すべてが過ぎ去り、ある日、みんな戻ってきました。最高に幸せでした。あれですべてが元通りになるような感じがしました。みんなで抱き合い、すぐに一緒に遊び始めました。
 でも、もう一つ、悲しい出来事がありました。
 ある日突然、マカコが寝たきりになり、何をしても起き上がりませんでした。すると、マカコの様子を診にサントス市から獣医の学生たちが何人か来ました。診断の結果、やはり犠牲にしなければならないということになりました。
 兄の恒成は獣医の学生のみんなと、マカコのそばにいましたが、私と姉と妹、三人は少し離れた家のドアからのぞいていました。三人とも不安で、気がかりで、どうかマカコが早く良くなりますようにと祈りながら見ていました。
 その時、一人の学生が銃をとってマカコを撃ってしまったのでした。私たちの祈りに反し、全てがショックと絶望に変わってしまったのでした。
 私たちには「犠牲にする」ということの意味が分からなかったのです。私たちは悲鳴を上げてただ泣くばかりでした。子供の私たちにとっては、あの学生たちは私たちの愛するマカコを殺してしまった残酷な悪い男の人でしかありませんでした。挙句の果てにかわいいロバの頭を引き裂き、持って行ってしまったのです。
 後になって、彼らは獣医科の学生たちで、マカコの頭を通して病気の原因を研究したいと、それで一発で「安楽死」させ、頭を持って行ったのだと、もちろん色々な形で説明してもらってようやくわかったのです。

第10章 絹のドレス

 父の一つの習慣として、万礼節(フィナードス)の日に関するしきたりみたいなものがありました。それは、11月2日が近づくと毎年父は私たちに新しい服を調達してくれるのでした。女の子の私たちには同じきれいな柄の絹のドレスを、兄の恒成には地味だけど貫禄のあるスーツを着せ、みんなで母のお墓参りに行くのでした。