ブラジルで最も一般的な除草剤のグリホサートが多くの子供の命を奪っていると5月25日付オブセルヴァトリオ・ド・テルセイロ・セトル・サイト、同28日付エスタード・デ・ミナス紙サイトなどが報じた。この農薬は国内で使われる除草剤の62%を占め、2016年の販売量は他の除草剤七つの計を上回った。
グリホサートは遺伝子組み換え大豆の認可で使用量が急増した。現在のブラジルは米国を上回る大豆生産国で、大豆生産州の国内総生産(GDP)の成長率は、国全体を上回る。大豆生産は地域全体の経済活動も牽引している。
だが、プリンストン大学とジェツリオ・ヴァルガス財団(FGV)、教育調査研究所(Insper)の研究によると、南部と中西部では大豆生産に使うグリホサートのため、年平均503人の子供達が命を落としており、子供の死亡率は他地域より5%高いという。
Insperのロドリゴ・ソアレス教授は共同研究者らと共に会見に臨み、「除草剤は農薬に直接触れない人にも大きな影響を及ぼす。この農薬は欧米なら過半数の人の体内に入っているが、私達は、水に溶けたグリホサートが生産地から遠く離れた地域まで運ばれ、除草剤には直接触れない人にも健康被害を与えている事を初めて明らかにした」という。
グリホサートはモンサント社が1974年に発売。2018年に同社を買収したバイエル社は、「研究の内容は信頼できない」との見解を表明。ブラジル大豆生産者協会も、「科学的な根拠に欠け、ブラジルでの大豆生産の実態を理解していない」という。
農業擁護団体の集まりのクロプライフ・ブラジルは、「40年以上も前から使われている農薬で、常に安全性を追求してきた」「ブラジルや欧米の衛生管理機関が人体への危険性はないとしている」と主張している。
グリホサートは植物の成長を助ける酵素を抑制するが、相手を選ばないため、影響を避けるように遺伝子操作した作物でないと育たない。その代表格が、モンサント社が開発し、1996年に米国で売り出した遺伝子組み換え大豆だ。
この大豆は1998年にブラジルでも使われ始めたが、すぐ使用禁止となった。だが、紆余曲折を経て、2005年に使用・販売許可が出た。2010年代半ばに生産された大豆の93%は遺伝子組み換え大豆だ。
グリホサートの使用も急増中で、2000年は39500トンだったが、2010年には12万7600トンが使われている。
欧州連合では2015年に発がん性が疑われるとして使用禁止を求める動きが起き、2022年12月で使用許可が切れる。米国でも同様の理由で、バイエル社に数十億ドル単位の賠償責任が言い渡されている。
だが、ブラジルでは一度使用を認めると恒久的に使われる傾向がある。また、2016年以降、農薬認可が急速に進み、2020年には493種を承認。また、欧州では引用水1リットルに0・1マイクログラムしか認められていないグリホサートが、500マイクログラムまで認められている。
遺伝子組み換え大豆の生産やグリホサートの使用量が増えた2004~10年に行われた研究によると、大豆生産地域では低体重児や未熟児誕生の可能性が大で、死亡率も高いという。しかも、問題発生は大豆の植え付けや農薬散布が行われる10~3月が多く、雨が多い時は健康被害が多い事も判明したという。