5月29日、ボルソナロ大統領に対する抗議デモが全国200以上の都市で行われた。コロナ禍で密を作ることが恐れられる中、いずれの都市でも多くの参加者たちが集い、ボルソナロ政権に対する強い不満を表明した。5月30日付現地紙が報じている。
今回のデモの最大の原因は、経済を最優先し、全国での死者数が46万人を超える事態を招いた、ボルソナロ政権のコロナ対策の甘さに対する不満だ。この背景となっているのは、5月から本格化した上院でのコロナ禍に関する議会調査委員会(CPI)で、大統領自身の長期におけるワクチン購入契約の無視や、コロナ否定論者や非医療関係者をまじえた「影の委員会」を設け、頻繁に会合を開いていたなどの疑惑が次々と浮上していることだ。
こうした不満が、コロナ第3波到来が懸念される中で爆発。主催者側の発表によると、5月29日のデモは、全国の26州と連邦直轄区の213市と国外の14の国で実施された。全国でのデモ参加者は約42万人に上ったとされている。
最も規模が大きかったのは、サンパウロ市パウリスタ大通りで行われたものだ。ここには今回最多の約8万人の市民が参加し、サンパウロ美術館(MASP)を中心とする7区画を人で埋め尽くした。このところ、ボルソナロ大統領支持派が行っていたデモでは同大通りの2、3区画分しか埋まっていなかったから、反対派の方が勢いがある。
今回のデモは中央労組(CUT)や左翼政党が中心とされ、参加した人たちの顔ぶれには大学生や女性が目立った。拠点の近くには巨大なボルソナロ氏の風船人形も立てられており、ボルソナロ大統領の罷免や予防接種の推進、緊急支援金の増額や支払い期間延長などを求めて行進を行った。
昨年のサンパウロ市市長選次点のギリェルメ・ボウロス氏は「22年の大統領選まで待てない。今すぐに罷免を」と訴えた。デモの開始は16時だったが、解散の号令が出たのは20時を過ぎてからだった。
今回のデモは、大統領支持派の乱入がほとんど見られず、大半の市で穏便な形で行われた。ただし、ペルナンブッコ州都レシフェ市で行われたデモでは、デモを警戒していた軍警がゴム弾を発射。
これが、デモに参加していなかった一般市民にあたってしまい、ダニエル・カンペロ・ダ・シウヴァさん(51)とジョナス・コレイア・デ・フランサさん(29)の2人が負傷。とりわけ、ダニエルさんが左目から大量の血を流しながら歩く姿は全国的に報じられた。ダニエルさんは失明し、緊急手術と義眼を入れる必要も生じており、軍警による傷害事件として、賠償問題への発展が予想されている。
グローボ局のジャーナリスト、オクタヴィオ・ゲデス氏は今回のデモに関して「ボルソナロ主義が(人気全盛のときには圧倒的だった)デモやネットで支持を失っていることを示した」
としながらも、「レシフェでのようなことが起こると野党側にも危険だ」とした。
なお、今回のデモには国外メディアも注目して取材陣を送り込んでおり、国際社会ではボルソナロ氏のイメージダウンが一層進みそうだ。5月30日には、ボルソナロ派の人々が、今回のデモの写真を改ざんし、この写真は2016年に起きた、ジウマ元大統領の罷免を求めるデモのものだというフェイクニュースを流したりする事態も起きている。
★2021年4月20日《記者コラム》CPIの裏で二者択一迫られるボルソナロ=セントロンかゲデス財相か
★2021年4月13日《記者コラム》35万国民の死の責任は誰にあるのか?
★2021年4月6日《記者コラム》頼みの綱の軍部からも一線を引かれた大統領