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安慶名栄子著『篤成』(18)

 私たちへの好意と敬意、そして繊細なお心遣いを伝えたく、突如として訪れて下さったのです。私たちにとってこの上ない愛情深い、真の友情の証でした。私たちもどんなにガスパールさんに感謝していたことか、あのシーンは生涯忘れられないでしょう。
 私たちはあんなに気高い好意にはどうお返ししたらいいのかと、ただ心の底から深く、感謝の気持ちを表するのみでした。
 私はガスパール家の皆さんがとても恋しく、心にポッカリと穴が開いたような感じで暮らしていました。すると、母がとても恋しくなるのでした。
 その恋しさが私をちょっとした変な行動に導いてしまいました。気が付いたら、自分は母の服を着て寝ていました。
 父は、母の服を大きな風呂敷に包んで大事に収めていました。私は何も考えずにただ母の服を一枚取り出し、着替えてベッドに入るのでした。そんなことで少し心が和むような感じがしたのです。そんな行動に父が深い苦痛を覚えるなんて私には知る術もなかったのです。
 私のそんな行動に気が付いた時、父はどうしていいのかわからず、おばあちゃんのところに相談に行きました。そして二人で考えた結果、物置の一番高いところに風呂敷包みを置くことが決まりました。そうすれば子供には届かないでしょうと思ったらしいのです。
 でも私は頑固な小さなサルみたいな子だったのです。全く問題なく物置によじ登って、高いところにあった風呂敷包みから母の香りのいい服を一枚取り出し、それを着てまたぐっすり寝るのでした。
 父は、そんな私の何気ない母への好意に対して深い苦しみを覚えていたのでした。仕方なくおばあちゃんが母の着物を全部持って行ってしまいました。愛情に欠けた子供がおしゃぶりを取られたかのように私は深い苦しみを覚えました。でも、父もとても苦しんでいたのです。私の気まぐれなわがままを心の底から「許してください」と言えたら、どんなにうれしいかと思う今日この頃です。
 ある夜、父が用事で出かけていた時の事でした。壁時計の箱から変な音が聞こえてきました。その時計はお兄ちゃんが届かないようにうんと高いところに設置されていました。なぜならやんちゃの恒成兄ちゃんは目覚まし時計でも何でも、その構造を知りたいだけに全部解体してしまうのでした。
 とかく、あの変な音が何であったか不思議で、普段は度胸が自慢のお兄ちゃんまでもが怖がってしまい、4人とも部屋の隅っこで布団にくるまってそのまま寝込んでしまいました。
 父が帰宅し、馬から降りて「ただいま」と言ってもいつもの返事がなかったので、ランプに火を灯し私たちを探し始めました。家中探しても私たち誰一人見つからなかったので、慌てて再び馬にまたがり急いで隣の家まで行ってみました。
 そこにいなかったのでもう一軒先の隣のお家まで行ってみました。父はその時、絶望のあまりどのようにして馬に乗ったのか、まったく覚えていない、と後になって話していました。
 気が焦りすぎていたので少し落ち着き、いったん家に戻ってみようと決め、ゆっくりと探し始めたところ、4人が布団にくるまって一緒に寝ているのを見つけ、膝の力が抜けるくらいホッとしたと話してくれました。