陸軍は3日、現役の陸軍中将でありながら、軍の規則に違反してボルソナロ大統領支持のデモに、マスクも着けずに参加したとして処罰が予想されていた、エドゥアルド・パズエロ前保健相に対して処分を行わないことを決めた。これをめぐり、軍に対し、強い批判の声が飛んでいる。3、4日付伯字紙、サイトが報じている。
これは、ボルソナロ大統領が5月23日にリオ市で約1万人の支持者を引き連れてのバイク・デモを行った際、パズエロ氏が参加したことに関するものだ。現役軍人は政治的な活動への参加を禁じられている。しかもこの時は、大統領もパズエロ氏も、保健省の勧告に反し、マスク不着用で密を作っていた。
パズエロ氏は、5月19、20日にコロナ禍に対する上院の議会調査委員会(CPI)に召喚された際、15回もの虚偽証言を行ったことが問題視された直後だっただけに、なおのこと、その責任を問う声は大きくなった。
このデモ参加は社会問題にも発展し、軍内部でもパズエロ氏に対する反発が強かったため、当初はパズエロ氏への処分が確実視されていた。だが、軍からのこの件に関する正式な見解の発表は大きく遅れた。
それは、軍内部で「パズエロ氏を処分すれば、ボルソナロ氏が陸軍総司令官を更迭するのではないか」との恐れがあったためだ。今年3月、ボルソナロ大統領は、自身が非常事態宣言(エスタード・デ・シチオ)を発令してバイア州や南大河州、連邦直轄区の外出自粛令を解こうとしたが、陸軍中心にその意向に反対していることを知るフェルナンド・アゼヴェド国防相(当時)が大統領に反対して更迭された。また、3軍の総司令官もその直後に全員が抗議の意味で辞職した。
陸軍としては、軍内部での声が強かった「30日間の拘禁」「中将職停職」などの懲罰を与えることで、パウロ・セルジオ・ノゲイラ・デ・オリヴェイラ総司令官が就任わずか2カ月で更迭され、陸軍内部が不安定になることを恐れていた。
この結果、リオ市のデモから11日も経ってから、陸軍がパズエロ氏の処分を行わないことを発表した。表向きは、「大統領は政党に所属していないから政治集会ではないし、選挙前ではない」という弁明を認めた形だが、同件に関するマスコミ、政治家、司法などの反応はきわめて厳しいものがあった。
その中で目立ったのが、ブラジル弁護士会(OAB)のフェリペ・サンタクルス会長が主張したような、「軍内部の処罰もできないようでは、民主主義が脅かされ、軍が無政府状態になりかねない」というものだ。
それは、「軍は政治からは独立した組織」という、憲法でも規定されていることに軍自体が目をつぶり、軍人の行動を抑えられなくなれば、特定の政治的な意向を持った人たちが独自に行動を行うようになってしまうのではないかという懸念だ。
この他にも、「三権から独立状態にある軍が連邦政府に屈した」などの意見も見られている。
軍の内部でも、ボルソナロ大統領と対立して大統領府秘書室長官を辞任したことで知られるカルロス・アルベルト・ドス・サントスクルス氏は、今回のパズエロ氏への軍の処分を「恥だ」と酷評。同氏はボルソナロ氏を「体制を腐敗させる人物だ」とし、対決の構えを見せている。
また、パズエロ氏がコロナ治療薬にクロロキンを加えるなど、大統領の言いなりであったことや、同氏を巡る一連の動きの中で、国防相としての姿勢を明確にしなかったブラガ・ネット氏についても、「第2のパズエロ」と呼ぶ声が出ている。