ドナルド・トランプ氏が米国大統領を退いて以降、国際政治におけるボルソナロ大統領の孤立化が指摘されて久しいが、13日、さらに痛手が襲った。イスラエルで、ベンヤミン・ネタニヤフ氏が首相の座を追われた。
ネタニヤフ氏は、国際政治における現在の「極右政治家」の先駆的存在で、ご多分に漏れずボルソナロ氏も敬愛していた。自身は大統領になって間もない頃から、ボルソナロ氏はトランプ氏とネタニヤフ氏を「世界3大保守国家元首」のように称し、公の場で米国とイスラエルと伯国の3本の国旗を掲げ、あたかも「3国同盟」のように吹聴した。
20年5月3日に大統領官邸前で反連邦議会・最高裁の「反民主主義集会」が行われた際には、ボルソナロ氏自らが集まった群衆の前に登場し、この3つの国旗を振りかざす場面さえ見られた。
だが、この3つの国旗のうち、すでに2つで保守派トップが座を失い、仲間として振りかざすことのできる国旗は伯国ただひとつのみになった。
もっともボルソナロ氏が夢見た、その「3国同盟」も、長続きはしそうにないことはだいぶ前から予想はされていた。トランプ氏は任期中の国内での支持率が上がらず、20年の大統領選での苦戦は早くから予想されていた。
ネタニヤフ氏も所属政党のリクードが議会選挙で2019年から苦戦の連続。ネタニヤフ氏が議会で過半数になるための支持派の獲得に苦慮していることが何度も報じられていた。今回は野党側が「ネタニヤフおろし」に本格的に取り組んだため、本来の主義主張の全く違う新しい連立与党が組まれることになった。その結果、ネタニヤフ氏の下野が決まった。
新しくイスラエル首相に就任するナフタリ・ベネット氏は、主義主張は「ネタニヤフ氏よりも右寄り」を自称しながらも「だが、国民の怒りなどを利用したポピュリズムは行わない」とネタニヤフ路線をすでに否定。新しい連立政権内ではベネット氏の2023年の任期終了後の次の首相まで決めているが、その後任予定者のヤイル・ラピド氏に至っては中道派だ。
これでは、「大使館をテルアビブから(イスラム教とユダヤ教が聖地争いをしている)エルサレムに大使館を移す」というボルソナロ氏の構想が実現される可能性は薄く、同国との関係も以前のようには行かないはずだ。
そして現在、世界のどこを見渡してもトランプ氏、ネタニヤフ氏に代わりうる、世界的影響力を持ちうる極右主義の国家元首は見当たらない。
南米政界でも孤立中のボルソナロ氏だが、ペルーの大統領選でリード中のペドロ・カスティーヨ氏の不正を訴えているケイコ・フジモリ氏が頼みの綱といったところか。(陽)