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安慶名栄子著『篤成』(26)

 焦って起き上がらせようとした途端、彼女の口から太い声が出て、「私はプレット・ヴェーリョだ。20年以上もヂット・ミネイロと一緒に働いたのだ。僕の唯一の心配は、この世でたった一人だったから、死んだときに誰が葬式をしてくれるのかだった。ヂット・ミネイロはいつも『お前が死んだら俺が葬式ぐらいしてあげるよ』と約束してくれたんだ。すると俺がある日マタラゾ家の草を刈りに行ったときに井戸に落っこちてしまった。ヂット・ミネイロが他の仲間たちを連れてきて僕を救出してサンタ・カーザに入院させてくれたが、僕はとうとう死んでしまったんだ。そして、ヂット・ミネイロが葬式をしてくれるのを3日間待ったけど、彼はとうとう来なくて、僕は乞食、無名のものとして埋葬されてしまった。僕はネーガが好きだった。彼女はヂット・ミネイロに隠れて僕にお酒も少しずつくれた。寒いときにはヂット・ミネイロの上着も貸してくれたのだ」。
 私はびっくりして、それでは彼には何が必要だったのかと聞いてみました。すると、お祈りとローソクを灯してほしいとの返事が返って来ました。私はイヴォーネに、すぐにローソクを持ってくるように頼みました。ローソクを灯して、驚きのあまり、どんなお祈りをしたのか覚えていませんが、とにかくお祈りをしました。
 すると、突然ネーガが目覚め、まどろんだ状態で起き上がり、立ち上がって行きました。
 私は3日ぐらい待ってからネーガにプレット・ヴェーリョの事を聞きました。すると、彼女は腹が立ったような状態で、自分のご主人がプレット・ヴェーリョに対し、すごく不公平なことをしたと言い出しました。プレット・ヴェーリョはご主人のところで20年も働き、彼のたった一つの願いは死んだときに無名の乞食のように埋葬されないことだったと。
 井戸の事と、サンタ・カーザに入院された事、そして入院以来プレット・ヴェーリョの事が全く分からず、生きているか、死んでしまったのかも知らなかったとのことでした。
 私は彼女の家で起こったことをすべて話してあげました。
 プレット・ヴェーリョさんは亡くなっており、お祈りをしてほしい、ローソクを灯してほしいということを伝えてあげました。
 ネーガはそれ以来毎日ローソクを灯して上げ、台所のすぐ側にあったバナナの樹の傍に少しばかりのお酒を捧げてあげました。すると、彼女はお酒をやめ、咳もしなくなり、体にも肉が付き、信じられないくらい綺麗な女性に変化しました。
 人生とは、本当に不思議なことがいっぱいです。

第14章  新たな経験

 さて、私は結婚歴8年目の時に離婚をして、父の家へ戻りました。父はそれに対し一言も言わずに、黙って一人で苦しんだと思います。
 主人の願いに応じて復縁を試みましたが、以前よりもひどい状態に陥ってしまいました。今度は兄が干渉し、「そんなにつらい思いをすることなんかない。家へ来い」と言われ、兄の家族のところでお世話になることにしました。