6月25日に上院のコロナ禍議会調査委員会(CPI)以来、ルイス・ミランダ下議への注目度があがる一方だ。かねてから高い注目を浴びていたこの日の証言で、「ボルソナロ大統領は、(インドのコロナワクチンの)コバクシンの不正契約で(連邦政府リーダーの)リカルド・バロス下議が関与していたことを事前に知っていた」と発言。ボルソナロ氏を窮地に追い込んだためだ。
この言動をめぐり、国内のネット上では「歴史は繰り返す」「ミランダ氏はペドロ・コーロルの再来だ」「いや、ロベルト・ジェフェルソンだ」との声があがっている。これがなんともブラジルらしいし、この国の政治史を語る上でのキーワード的人物だと改めて思わされた。そして、こうした反応はきわめて適切だとコラム子は思った。
そこで「ペドロ・コーロル氏」「ロベルト・ジェフェルソン氏」が何を意味するかを振り返ってみたい。
ペドロ・コーロル氏は1992年に任期を終えられずに大統領の座を追われたフェルナンド・コーロル氏の実弟。92年5月、ペドロ氏は「ヴェージャ」誌に対し、コーロル大統領の金庫番だったPCファリアス氏が連邦政府内で行っていた贈収賄工作を暴露。
これを契機としてコーロル大統領罷免の動きがはじまり、それが成立する直前、逃げるように辞職した。
一方、2005年当時、ブラジル労働党(PTB)の党首だったロベルト・ジェレルソン氏はこの年の6月、ヴェージャ誌に対し、「労働者党(PT)政権が連邦議会での支持と引き換えに、政党幹部に毎月贈賄を行っていた」と暴露した。これが伯国政界最大級の汚職スキャンダル、「メンサロン事件」に発展する。
ジェフェルソン氏は自らも収賄を認めて有罪、服役しながらも、PT政権の要人ら与党関係者多数を巻き添えにした。PT政権の基盤を揺るがし、彼はこの事件の暴露者としてブラジル政治史に名を残すこととなった。
今回のこのコバクシン疑惑でボルソナロ氏がどうなるかは、まだわからない。だが、これまでの大統領の対応を見るに「バロス氏が関与しているだろう」と発言したことを否定できず、「不正が行われなかったか、注意はした」ことにしようとしているようだが、これでは心もとない。
ミランダ氏がメディアに不正を暴露し始めたときに記者会見でも開いて、本当に保健省に注意していた証拠を早々に提示して反論すれば鎮火できたのに、逆にミランダ氏に対して「連邦警察に捜査させる」などと脅しをかけている。これでは説明がつかない。
一方、ミランダ氏は大統領との会話の録音があることをほのめかし、さらにバロス氏に呼び出されて、賄賂と引き換えに口止めを依頼されていたことを暴露。このまま大統領を巻き込んだ一大スキャンダルに発展していくと、ペドロ氏、ジェフェルソン氏を超えるかもしれない。(陽)