ボルソナロ大統領が自身の罷免リスクを回避する目的で、大統領府にセントロンの最大党である進歩党(PP)党首のシロ・ノゲイラ上議を迎えることを決めた。上院のコロナ禍議会調査委員会(CPI)などをコントロールするための対策とも見られているが、同時にリスクも高い動きと見られている。22日付現地紙などが報じている。
ノゲイラ氏の大統領府入りは今週に入って浮上した話で、22日午前中にボルソナロ大統領自身がバンデイランテス・ラジオのインタビューで認めた。正式発表は来週の見込みだが、大統領は21日のうちに、ノゲイラ氏の就任が予定されているのは官房長官職であることを明らかにしている。
この動きをメディアから知らされた現在同職のルイス・エドゥアルド・ラモス氏は、寝耳に水で、驚きを隠さなかった。だが、大統領はラモス氏を大統領府総務室長官に据え、総務室長官のオニキス・ロレンゾーニ氏(民主党・DEM)を、新たに創設する省の大臣に配置転換する予定だ。新設する省は、現政権発足時に経済省に統合された労働省だが、雇用・社会保障省と呼ばれる見込みだ。
パウロ・ゲデス経済相は経済省が分割されることについて聞かれ、「政権内の業務を整理するためで、経済政策は変わらない」と語っている。
この背景には、大統領側近やセントロンからの圧力が強まったことがある。側近たちが指摘していたのは、「上院でのアルチクラソン(政局調整)」の弱さだ。これが弱いことによって、コロナ禍CPIで危機に陥っていると見ている。
そこで、セントロン最大党PPの党首で、コロナ禍CPIの連邦政府側の委員でもあるノゲイラ氏にアルチクラソンをまかせることで事態を切り抜けようという考えが生じた。新省創設とラモス氏とオニキス氏の異動は、セントロンからの圧力でノゲイラ氏を政局調整役に据えるために生じた必要を切り抜けるための苦肉の策だ。
オニキス氏はコバクシン疑惑の際、改ざんされたインボイスを示しながらルイス・ミランダ下議を批判し、火に油を注いだ。ラモス氏も、連邦議会が選挙キャンペーン財政特別基金 (フンドン)増額を含む連邦予算基本法(LDO)を可決した件で誤った情報を大統領に伝え、大統領がマルセロ・ラモス下院副議長を酷評するという事態を招いた。同副議長は中立的な立場だったが、それ以降、反対派を明言し、罷免請求見直しなどの動きを見せている。
ボルソナロ大統領は昨年、反民主主義デモ参加で連邦議会や最高裁との関係が悪化した上、コロナ対策で知事たちとの関係も悪化したりして罷免要求が高まった際、政治的指向の違いがありながらも、罷免を避けるためにセントロンに接近。以来、閣僚にセントロン系大臣が増えるなど関係を強めていたが、コロナ禍CPIでのワクチン契約汚職疑惑で危機が増し、セントロン依存度が高まっていた。
これにより、ボルソナロ氏がかつて所属していたPPに復党する可能性も有力視されはじめている。大統領はパトリオッタへの入党を希望していたが、同党内部の強い反発で流れている。
だが、この動きに疑問を抱く声も少なくない。ノゲイラ氏はかつて、22年の大統領選でボルソナロ氏と争うことが予想されるルーラ元大統領を「ブラジル最大の大統領」と礼賛し、ボルソナロ氏を「レイシスト(人種差別主義者)」と切り捨てた経験がある。それゆえ「カメレオン」などとの揶揄も受けている上、ラヴァ・ジャット作戦をはじめ、汚職疑惑が多い人物でもある。
ラモス氏を異動させる必要が生じたことで、ボルソナロ氏と軍部の関係を懸念する声もある。
さらに、22日付G1サイトが掲載した、ノゲイラ氏の大統領府入りは「最後の切り札」とするコラムのように、大統領にはこれ以上策のうちようがないことを指摘する声もある。