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安慶名栄子著『篤成』(42)

第30章  久米島

 父の姪の結婚式に招待され、私たちは再度沖縄を訪問しました。父の甥や姪たちは父を楽しませるために何をしていいのか迷うくらい色々ともてなしをして下さいました。
 その機会には、美味しい物をたくさんご馳走していただいた外、船で久米島という風光明媚な離島まで行きました。
 その島のビーチは亀の甲羅の形をしており、本当に興味深いところでした。
 これもまた父と共にした特別な旅となり、父と一緒に沖縄全島を知る事が出来たと言えます。

第31章  兄弟愛

 ある日曜日の事でした。父と共にサン・ジョゼ・ドス・カンポスのとある田舎風のレストランで食事をしていました。父も大好きなフェイジョアーダをいただきながらビールを嗜んでいました。そのレストランからは見事な沼地が眺められました。静かな、穏やかな時間を過ごしている時には父はよく喋り、昔の楽しい思い出や悲しい思い出も蘇らせ、それらを話してくれました。その日に父は自分の甥や姪たちは自分にとって子供みたいなものだと言いました。
 「僕は父に送ったお金で購入された沖縄にある土地を売りたいと思ったことはない。父の遺産として残すために、甥や姪たちに譲渡したのだが、皆とても仲が良く、心の優しい人たちだから、僕もうんと満足している。もしその土地を売りはらっていれば、知らない人たちの手に渡っていたから、それでは悲しい」と父が言いました。
 私は、「皆がお父さんみたいに愛情深い心を持っていたら、世界はもっと平和なところになっていただろうね」と答えました。
 本当に、父は気高い心の持ち主でした。人々がこのように愛情深く皆に接する事が出来たら、平和な世の中になるであろうと思います。
 もしかしたら、父には私たちがあの土地の一部は自分たちにも権利があると言い出しはしないか、との懸念があったのかも知れません。でも私たちはそのような要求をしたことがありませんでした。父はそんな話をして身が軽くなったような気がします。
 父は口癖のように「私たちはここで幸せに暮らしている。一番いいのはみんな仲良く暮らしていることだ」、といつも言っていました。
 あの日は皆軽く穏やかな雰囲気に包まれて帰宅しました。父が肩から重荷を下ろし、ほっとしたような感じを受けました。沖縄のお爺ちゃんが、亡くなる前に父が有する土地の事を細目に説明した手紙を父に送っていたことは知っていましたが、父はそれについて話したことがありませんでした。沖縄の親戚や友人たちは父が有する土地について、父が部落で一番の財産家だと言っていました。だが、父にとっての富は、まったく別のもので測られるのでした。それは団結心、尊敬心、そして家族愛だったのです。