10日、下院で「印刷付き電子投票」(ヴォト・インプレッソ)を選挙に導入するか否かの憲法補足法案(PEC)の全体投票が行われ、承認には308票以上が必要だったのに、賛成票は229人に終わり、ボルソナロ大統領の求めるヴォト・インプレッソは却下された。10、11日付現地紙、サイトが報じている。
10日夜に行われた投票は当初、「200人を超えないかもしれない」と予想まで立っていた。それは5日に行われた特別委員会での投票で、11―23で惨敗していたためだ。
だが、最終的に賛成票は229票まで伸びた。この数自体は反対票の218票を超えたが、この日は欠席者も64人と多かったこともあり、PECの承認に必要な308票には遠く及ばなかった。
意外に票が伸びたのは、党が打ち出した「反対」の意向を裏切った票が入ったためで、民主運動(MDB)や民主社会党(PSDB)では半数近くが賛成票を投じた。PSDBでは、14年の大統領選でジウマ氏に僅差で敗れた後、不正を疑って選挙高裁に訴えたアエシオ・ネーヴェス氏が棄権した。左派でも、ブラジル社会党(PSB)や民主労働党(PDT)で約2〜3割程度の謀反票が入った。
こうした背景として、この日の午前中にボルソナロ大統領が三権広場の前で戦車を含む海軍の車両14台による軍事行進を行わせたことや、来年の選挙の際、今年の1月6日に米国で起きた連邦議事堂襲撃のようなことが起きることへの懸念などが考えられている。
しかし、それでも承認には及ばず、アルトゥール・リラ下院議長から「この件はもう終わりだ」との宣言の言葉も出た。
ヴォト・インプレッソの直接的な敗因となったのは、ボルソナロ氏が頼りにしていたはずのセントロンから思うような支持が得られなかったことだ。
とりわけ痛かったのは、官房長官に迎えたシロ・ノゲイラ氏が党首をつとめ、リラ下院議長が所属する進歩党(PP)をまとめられなかったことだ。同党でこの日に賛成票を入れたのは16人と、党全体の議員数の半分以下で、反対票が13人、欠席が11人に及んだ。とりわけ、ボルソナロ派と見られていたアギナルド・リベイロ、アンドレ・フフカ両下議が欠席したことも響いた。
自由党(PL)に至っては、過半数を超える23人が反対票を投じ、賛成の11票を2倍以上上回った上、欠席も7人に及んだ。同党のマルセロ・ラモス下院副議長はボルソナロ氏との仲を急速に悪化させていることでも知られているが、同副議長は「すべての力を使ってネット部隊に議員を威嚇させた末に大統領が破れたのは、連邦政府が完敗したことを意味する」と、投票の舞台裏まで明かして分析している。
ボルソナロ大統領は敗戦後、投票結果を受け入れるという下院議長との約束を無視し、「(選挙高裁長官の)バローゾ氏が議会をそそのかしたから負けた」と語り、「来年の選挙は信用できないものになる」と語った。ボルソナロ氏は現状の世論調査の支持率で、ルーラ元大統領に大きな差をつけられている。
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ボルソナロ大統領が下院でヴォト・インプレッソの投票が行われる日に三権広場で戦車の行進を行わせたことに、国民からの批判が集まっている。ネット企業「クエスト」が行った調査によると、この行為に対するツイートの93%が批判的なものだったという。また、その反応の中では、ラップ歌手のマルセロD2が「この煙に見るべきものはないな」とツイートしたように、軍用車両14台のうち黒煙をあげた戦車はわずか1台と、威嚇にしては迫力のない行進だったことを冗談画像などでからかうものも少なくない。大統領選の対抗馬とされるルーラ元大統領からも、「軍事クーデターをする力もない」と揶揄された。大統領が思う以上に、国民の反応は冷静なようだ。