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キノコ雑考=ブラジルに於けるキノコ栽培の史実とその背景=元JAIDO及びJICA 農水産専門家 野澤 弘司 (8)

 2021年7月、風邪薬コルゲンコーワで有名な興和創薬(株)がイヴェルメクチンのCovid-19に対する、治験投与による安全性と活性確認の臨床試験が、今年末を目処に結論を得るべく始められたとのテレビ報道の成果が期待されます。
 近年、下村、大村両教授の偉業を継承し「これからはキノコの時代」との抱負を新たに、今や日本の多くの大学の理系学科には何某かのキノコ研究講座が開設され、若い学究者が土壌菌やキノコ関連の調査研究に挑む風潮の高揚は誠に望ましい限りで、イギリスの博物学者、Thomas Blakiston(1832〜1891)が1880年に提唱した北海道と本州の動植物相の分布境界のブラッキストン線の津軽海峡を挟んで北方の度島(オシマ)半島の各地では、多種に及ぶ菌根菌(生木の根から土に菌糸を成長させ燐や窒素等を吸収し植物と共生しながら成長するホンシメジ、松茸)や、腐生菌(倒木や落ち葉を分解して栄養を摂取する椎茸、ナメコ)等のキノコが群生し 研究者を魅了しています。
 昨今テレビでもキノコを啓蒙する報道も多く、NHKテレビの「試してガッテン」では、キクラゲの次の特性から近々食膳にはキクラゲブームの到来が予測されるとの事です。
 1)特異な栄養価。ヴィタミンDと、大腸の正常な働きを促し、長寿と健康の維持増進を担う腸内での酪酸菌を増殖させる餌になる水溶性食物繊維の含量は食材中最多で便秘改善にも良い。1日の摂取必要量は男性が20g以上、女性が18g以上だが、日本人は基準に至っていない。
 2)歯応えの感触が抜群。内側は水分が多く柔らかで外側は硬い二重構造で噛むとコリコリ食感。
 3)風味がない。生キクラゲはどのような料理にでも合う食材となり、生産は10年で12倍増。
 一方、ブラジルの広大な国土は温帯と熱帯で占められ降雨量も多く、キノコの発生と生育には至適条件に恵まれ終年いずこかで発茸していますが、未だかってキノコ狩りをしたとの話を耳にした事はありません。
 多分キノコ狩りには興味があっても、蛇、蜂、蚊、鰐、オンサ(豹)等の棲息圏に立入って遭遇する、天敵からの危害を意識した恐怖感が先行してキノコ狩りどころでは無く、更に野生のキノコは全て毒キノコと教わり教えた既成観念により、またラテン系の民族は古来村落には呪術宗教の信者も多く、キノコを偶像崇拝の神聖な祭祀の神具として崇め奉る宗派もあり、キノコを食材とするのは神を冒涜する事になり、既述のMycophilibia、即ちキノコ嫌いが多く、栽培されたキノコ以外は食べないとの習性が根強い爲かと思われます。
 南米に隣接したメキシコの日系人社会は少々趣が異なるようで、長らくメキシコ・シティに住まわれている荻野正蔵先生(ニッケイ紙、2020年7月23日“メキシコ革命に参じた日本人移民”を寄稿され、名著『海を越えて五百年』著者)から寄せられた情報では「メキシコはキノコ類が豊で、ほうき茸、舞茸、初茸、生シイタケなど何でもあります。市場には山から採って来たばかりのキノコ類が、小さなバケツ一杯5ドルぐらいで売られています。松茸は20年ぐらい前までは、もらっても大量すぎて飽きてしまい捨てたほどでした。この松茸は主に日本に輸出されています。10年以上前、松茸ブームに乗った日系人の間で縄張り争いが起き、一日系二世がピストルで殺された事件もありました。今は松茸が生える山が荒らされ、収穫量は激減し、毎年6月ごろになると日系食料品店には松茸が出回ります。1キロあたり一級品60ドル、二級品が40ドルぐらいです」との事でした。