「ブラジルには世界最大の日系社会があるのは皆さんご存知だと思いますが、どんな風にイメージしていますか?」――JICA横浜海外移住史料館主催のオンライン講演会が7月17日午前10時(日本時間)に開かれ、サンパウロ人文科学研究所理事の細川多美子さんは、そう聴講者に投げかけた。
同講演のテーマは「世界最大の日系人コミュニティの実像~440ヵ所のリアルボイス(本当の声)~」。人文研が今年1月に発表した『多文化社会ブラジルにおける日系社会の実態調査―日系団体の活動状況フィールド調査からその意義と役割を探る』(https://nw.org.br/report/)の内容を元にブラジル日系社会の実態を紐解くオンライン講演だ。
第1回目講演の申込者は301人、当日は235人が参加し、全ブラジルの約440団体や街中の日系・非日系人に聞き取り調査を行った「リアルボイス」を紹介した。
サンパウロに30年以上住むという細川理事だが、調査前までの日系人のイメージは「野菜や果物の普及に貢献」「和食が人気」「きまじめで社会的信用がある」「日系同士は分かり合いやすい」「一部が文化協会に属している」いった程度の認識だったという。
「南米最大のビジネス街パウリスタ通りを10分歩けば5人は会う」というほどサンパウロ市には日系人も多く暮している。その反面、都市部では「日系社会像」は見え辛くなっている。だが地方では日系人の歴史や足跡が色濃く残っているという。
だからブラジル全土の日系団体を調査する事で、日系社会の具体的な姿がみえて来るのではないかと、各地で「Kaikan」や「Bunkyo」の名で親しまれる文化(体育)協会を中心に団体を洗い出していった。
その結果、文化(体育)協会422団体・スポーツクラブ7団体(うち野球チームが5団体)、連合会23団体、ブラジル内に計452団体有る事が判明した。中には新設準備中や消滅したが集まりのみ残っている例もあり、同講演では440カ所としている。
現地会館まで赴いて会長や役員、婦人部、事情に詳しい長老など約3千人に聞き取り調査を行った。団体の規模や日本語学校の有無、年間行事、地域での存在感など146項目の聞き取りを行ったという。
街頭調査では、町の日系人の意識や周囲の非日系人が日系人にどのような意識を持っているかを調査しており、「ブラジル人の気質なのか、ほとんど断られる事無く皆さん快くこたえてくれた」と振り返る。結果について細川理事は「日系団体の街での存在感は想像以上に大きく、また本人たちが思っている以上に日系人の活躍度や影響は大きい」とまとめる。
一方で会館(地方日系団体)に属す人は約20%に留まっており、大半は会館とはつかず離れずといった関係。「日系人だから必ずしも会館に属するわけでなく、例えばリベルダーデならスーパー丸海に行くなどの文化は共有されていて、個人の日系性を保っているのでは」と分析する。
細川理事は「日本移民の先達は日本人の魂を残そうと努力してきました。それがブラジルで違う発展をして予想外の形で残っている」と実地調査を結論づけた。
第2回目「アマゾンから雪降る町まで、4千キロを貫く日系魂」は27日(金)日本時間19時半から講演が行われる。ブラジル時間では27日(金)午前7時半から。
各地日系団体で行われるイベントや、それを裏から支える婦人会について語られる。申込みやイベント詳細は海外移住史料館サイト(https://www.jica.go.jp/jomm/events/2021/210827.html)まで。