ここのところ、軍警や軍人の一部から、「9月7日の独立記念日にボルソナロ大統領に敬意を示し、最高裁へ抗議運動を起こそう」と呼びかける動きがネット上で強まり問題となっている。
彼らの主張の中には、今回の行動を1932年の護憲革命や64年の軍事クーデターと比較する声もあることから、「武装蜂起でもして、ボルソナロ軍事独裁政権でも作るのか」と不安がる声も聞こえてきている。
独裁政権うんぬんに関しては、「秘密裏に闇討ちするならともかく、事前にこれだけ情報が漏れていて世間の目も光る中、それをやるのは困難だろう」というのがコラム子の見方だ。
ただ、「もう、こういう独裁制を狙うくらいのところまでいかないと、ボルソナロ氏の政権維持は苦しくなっているのか」とも同時に思う。警察や軍のこうした支持者たちはボルソナロ氏にとっての最後の砦になっているようだ。
このような状況にボルソナロ氏が追い込まれているのは、これまでの支持基盤が大きく崩れてしまっているためだ。同氏のこれまの主な支持基盤といえば「企業家」「福音派」、そして「軍、警察関係者」だった。
だが「労働者党(PT)政権末期以降からの経済復興」をボルソナロ氏に期待した企業家は、経済再建がうまくいかず、コロナ対策での大失態や、一人相撲で民主主義を脅かすボルソナロ氏にその望みを託すことを諦めた状態だ。
そうなると、残るは福音派と軍、警察関係だけだ。彼らがボルソナロ氏が掲げた「汚職の撲滅」や「経済復興」などが叶わずとも同氏を支持するのは、これまで社会的には広く受け入れられてこなかった自分たちの保守的な価値観を浸透させてくれることを期待してのものだったと思われる。
だが、このところ「福音派のボルソナロ氏離れ」を報道するものも多くなっている。大統領選の世論調査でもボルソナロ氏は福音派のあいだでは1位ではあるものの、ルーラ氏との差は大きくない。さらに「ボルソナロ氏はキリスト教の価値観を代表などしていない」という聖職者の声も目立ち始めている。
この背景には、コロナへの無策で約58万人を死なせてしまったことも大きいだろう。ボルソナロ氏の主張に従っているあいだに、身内をコロナで失ってしまった人も少なくないだろう。
そうなると、頼みの綱は軍か警察、ということに結果的になってしまう。彼らからすればボルソナロ氏の存在は、「軍政崩壊以来、社会からの目線が冷たかった状況を変えてくれた」と感謝している人もいるだろうし、マッチョな価値観を好む人には刺激的な部分もあるのだろう。
ただ、支持基盤がそうした人ばかりになってしまうと、理屈でなく暴力的でさえある感情のみで動いてしまいがちになる懸念がある。こうなると多くの国民からの支持は相当苦しくなるはずだが。(陽)