日本政府支援事業◆サンパウロ日伯援護協会◆コロナ感染防止キャンペーン
2020年3月にブラジル国内で発生した新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、ブラジル日系社会をはじめ、ブラジル社会にも広く影響を及ぼし医療・社会福祉サービスを提供しているサンパウロ日伯援護協会(援協、税田パウロ清七会長)の活動にも多大な負担を強いた。コロナ禍で厳しい状況に直面した援協では、徹底した予防対策により、日伯福祉援護協会傘下の各高齢者施設をはじめ、リベルダーデ医療センターおよび日伯友好病院等での感染拡大を防いでいる。一般向けの感染対策とコロナ禍で経験した事例などについて、前園マルセリーノ武弘事務局長と、同病院感染症専門医の田中アルナルド医師にそれぞれ話を聞いた。
◆リベルダーデ医療センター感染対策
援協ではパンデミック以降、ブラジル政府およびサンパウロ州政府が推奨する感染予防対策を実施している。各施設内でのマスクの着用、消毒液の設置・使用といった基本的措置をはじめ、外部から来る一般の人々への体温検査を義務付けし、エレベーター乗降時の人数制限や待合室でのソーシャル・ディスタンスを徹底。PCR検査(有料)も、日伯友好病院とリベルダーデ医療センターで常時、受け付けている。
また、リベルダーデ医療センター3階でのデイサービスセンター各種対面活動はすべて中止されている状況だが、料理教室等のオンライン発信イベントは随時、行われている。
◆傘下施設で直面した緊急事態
前園事務局長によると、2020年に援協で開催した対面でのイベントは、3月8日と同15日にスザノ・イペランジアホームで行われた「ダリア祭り」だけだったという。「確か、(20年)3月10日過ぎ頃にパンデミックとなり、ダリア祭りはスザノ市のカレンダー行事となっているため、開催するか否かをスザノ市の保健局長に相談に行きました。
その結果、当時は『まだ感染者もいない』との判断により、唯一開催することができました。ただ、コロナが心配で参加しない人には事前に購入していただいた会場までの往復バス代を返却することにし、例年より3割くらい参加者は減ったのですが、欠席者の多くの方々がそのバス代を援協に寄付して下さいました」と同事務局長は、それらの人々の厚意に感謝の気持ちを表す。
一方、同時期にサントス厚生ホームの入居者の1人が、新型コロナで重症化した後に亡くなるという悲しい出来事が発生した。感染経路は入居者の家族からで、最初に家族がコロナで死亡した後、感染した入居者も相次いで亡くなったという。「本当にショックでした」と前園事務局長が語る通り、事態を重く見た援協ではただちに他の入居者の家族との面会を謝絶し、ホームの建物全体を消毒。
施設入館の際には入口で消毒用マットを使用し、マスクの着用、検温を徹底させた。また、各施設の関連職員でも風邪の症状がある人には、2週間の自宅での隔離を実施するなどして、感染予防対策を行なった。
しかし、パンデミック発生当初は消毒用アルコールやマスクも不足している状況で、各高齢者施設にはとりあえず布マスクで対応した。当初、入居者の多くは普段はあまり使用したことがないマスクの着用を嫌がる傾向にあり、説得するのにも苦労した。
援協では、各施設への新たな入居希望者を断り、従来からの入居者の家族に対しても「一番安全なのは自宅に居ることでは」と希望者には一時的に自宅に戻ってもらうことも提案したが、コロナ禍の中で自宅に連れて帰る家族は1人もいなかったという。
◆その後は入居者や職員で一人の死者も出さず
こうした対策が実を結び、他の施設の入居者でコロナの陽性反応者は若干名あったものの、コロナによる死亡者はその後、職員も含めて1人も出ていない。今年1月、2月には各施設の入居者と職員全員にワクチン接種を済ませたこともあり、コロナに感染しても重症化する人はほとんどいなくなった。
そのほか、パンデミック当初はオンラインのみで行なっていた本部での役員会も、昨年終わり頃からオンラインと対面での併用開催で実施できるようになった。また、今年6月頃からサントス厚生ホームとイペランジアホームに限り、医師の判断を仰いだ上で少しずつ新たな入居希望者も受け入れるようになるまで事態は緩和されてきたという。
前園事務局長は「最初の頃は入居者や職員の中でも『いつ、自分が感染するかもしれない』という恐怖心があり、今まで経験したことがない事態の中で何が正しいのかが分からない状況でした」とし、「そうした中で、各職員やスタッフの方々には本当によくやっていただいた」と、現時点までの感染対策の取り組みを振り返った。
◆特に徹底した日伯友好病院の感染対策
270床の病床数を有する日伯友好病院でもリベルダーデ医療センター同様、政府機関の推奨に応じた感染予防対策を実施。病院内での医師や看護師などの医療スタッフのほか、職員にもアルコール消毒を徹底させており、特に食堂では食事やコーヒー休憩の際の人数制限を2人までとする措置を取っている。
田中医師によると、パンデミック発生から今年8月現在までの約1年半の期間で、同病院へのコロナ患者入院総数は3723人。回復者数も3506人と多いが、死亡者数は196人となっている。ブラジル国内の感染第2波の影響でピークとなった今年3月9日には、一日に460人のコロナ感染者とコロナ感染疑いのある患者を受け入れたという。
同病院ではパンデミック以降、感染症専門医をはじめ、肺炎専門医、内科やリハビリ担当医など10人ほどで構成される「コロナ対策専門チーム」を結成。また、UTI(ICU、集中治療室)にも5、6人の専門医が常時、交代で勤務しており、感染患者数の増減に合わせて対応している。その結果、今年8月13日現在で同病院に入院している患者数は21人まで減少し、UTIにはその半数の10人ほどの患者のみとなっている。
同病院ではコロナ患者については、家族などの付き添いは一切禁止しており、それ以外の患者については付き添いこそ許されるものの、付き添いの交代は1回限りに制限しているという。さらに、医師が装着するマスクに関しては、コロナ患者に対しては「N95微粒子用マスク」を使用。それ以外は従来の手術用マスクを適用している。
田中医師は、コロナ禍での良い意味での教訓として特に、消毒液の一般使用の習慣化を挙げる。「(2016年に)豚インフルエンザが流行した際、消毒液の使用が一般にも広がったようだが、その後、その意識も薄まりつつあった。昨年からの新型コロナウイルスの蔓延により、消毒液の使用がまた、一般にもかなり広がった。一番重要なのはコロナウイルスを他人にうつさないことで、そのためにはマスクの使用やワクチン接種とともに、必要以外に外出しないことが大切」と強調した。
◆軽視できないコロナの症状
新型コロナウイルスについて田中医師は「個人的な見解」としつつも、「このウイルスは特に咳(せき)が激しくなったり、呼吸器系の症状が特徴だが、すぐに症状がおさまっても再発することが多く、決して症状を軽く見ないほうがいい」と呼びかける。
ブラジル国内では現在、ガンマ株(ブラジル株)の発症者が多数を占め、インド由来のデルタ株の症状も少しずつ増加している。隣国ペルー由来の「ラムダ株」について田中医師は「まだ、政府発表の注意報には示されていない」状況だというが、いつコロナ禍が収束するかは未だ分からないのが現状だ。そうした中、一般家庭で各個人ができる感染対策として、帰宅時の「うがい」や「手洗い」、消毒液による洗浄など基本的な自己防衛措置が重要視されている。