【日本政府支援事業「サンパウロ日伯援護協会」コロナ感染防止キャンペーン】
パンデミックの状況下で「新型コロナの感染リスクを下げ、いかに安心、安全な環境でビジネス展開を続けるか」は、全世界の企業にとって喫緊の課題となった。今後もしばらくは同じ状況が続くと予想される中、ブラジル日本商工会議所(村田俊典会頭)の協力を得て、ブラジルで事業を行う日系企業5社に「新型コロナウイルス感染防止対策」について、各社のこれまでの状況を聞いて紹介していく。第1回目は、カフェ・イグアス社の松井俊樹副社長に話を聞いた。
巣ごもり消費でビジネスは堅調
カフェ・イグアス社はインスタントコーヒーの製造会社だ。スーパーのコーヒー売り場でおなじみの「カフェ・イグアス」は、家庭での巣ごもり消費に支えられ、パンデミック前と比べてブラジル市場での需要が減ることもなく、ビジネスは堅調に進められてきた。また、国外への輸出もこれまでと大きな差はなく、巣ごもり需要を見越して在庫をストックしたいという顧客も現れ、活発な引き合いを受けた年となった。
「いかに社員に安心して出勤してきてもらい、工場の生産ラインを安定して操業していくかに腐心しました」と振り返る松井氏。需要の増した商品を生産するためにも、社員の安全を守り、製造現場を稼働し続けるのは絶対必要な課題だった。
約800人の従業員に安心と安全を
カフェ・イグアス社の本社と工場は、パラナ州コルネリオ・プロコピオ市にあり、サンパウロ市にも事務所が設置されている。グループ全体で約800人の従業員がおり、工場に約500人、倉庫に約70人、他は事務や営業の職員がいる。
生産現場以外の事務職は、パンデミックが始まるとテレワークが導入された。安全確保で最も考慮したのが、工場や倉庫の現場で働く人々に対するものだった。
生産ラインはコロナ下であっても人数を減らす訳に行かない。また商品開発のように、出社しなければ仕事が進められない場合もあり、部署ごとに通勤する人員を状況に応じて3割から5割に削減するなどの措置が取られてきた。同時に、手洗いやうがいの徹底、3密を起こさない環境づくりを呼びかけてきたことはいうまでもない。
日本からの出向社員らは、新型コロナの影響で任期交代の時期が通常のタイミングでは行えないこともあった。だが、一端ブラジルに赴任してからはそのまま現地で仕事を行い、日本に緊急帰国することはなかった。
会社独自のコロナ感染対策ハンドブックを配布
パラナ州コルネリオ・プロコピオ市は人口約4万8千人。比較的小さなコミュニティ―で社会が形成されており、カフェ・イグアス社は町を代表する企業となっている。
松井氏は「町が新型コロナで立ち行かなくなっては、工場も共倒れになります。従業員の家庭まで新型コロナの感染予防を支援することが、町も会社も守ることだと判断しました」と地域ぐるみの対応を練った。
従業員だけでなく、その家族の安全を確保することを最優先し、パンデミックの初期には、従業員とその家族全員にマスクを配布した。昨年7月には、工場で働く従業員向けに、現場や事務所でのコロナ感染予防を啓発するカフェ・イグアス社独自の冊子を制作し、社員全てに配布した。
その延長で、今年2月から3月にかけて、新型コロナ感染予防ハンドブックを制作して各家庭用にも配布、自宅でもより一層のコロナ対策に配慮することを呼びかけた。
行政とのコミュニケーションの重要性
会社で最善を尽くして感染予防対策に当たっても、従業員から感染者が出るのは避けられなかった。しかし、パンデミックに入る前から、市の衛生局と緊密に連絡を取り合って連携し、感染者が出た場合の会社のルールを策定していたため、事態を冷静に受け止めることができた。
「衛生局をはじめとする行政機関と日頃から密にコミュニケーションをしていたことで、感染者が出ても、生産ラインの操業を停止したり、縮小したりせずに済みました」と松井氏。
感染者が出たことで従業員に不安が広がらないように、日常的に社内の感染状況を報告し合うことにも努めている。月に1、2回は課長以上の約60人がオンライン会議に出席し、部署ごとの現状を報告し、従業員全体で社内の情報が共有できるようにしている。
今後はワクチン接種がキーポイント
カフェ・イグアス社では、ワクチン接種の強制は考えていない。しかし、社内アンケートを取り、ワクチン接種の状況を見ながら、特にテレワークの解除などに関して、新型コロナの影響で変化した職場環境の変更を検討していく。
ワクチン接種は従業員本人だけでなく、各家庭の子供たちまでいきわたった頃が、安心できる時期の一つの目安と考えているという。
細心の注意を払った新工場建設
カフェ・イグアス社が、パンデミック以前から計画していた事業の一つが、従来のスプレードライに加え、さらにプレミアムなフリーズドライのインスタントコーヒーを製造する新ラインを建設することだった。
昨年3月に工場の建設工事が途中でストップしたが、「このまま停止するわけにはいかない」と、9月には工事を再開することに決めた。
工事を始めると、現場には毎日約100人の建設作業員が、従業員と隣り合わせで出入りすることになる。当時は、サンパウロから来る者も町には入れないというような状況で、先行きの見えない中、人々が神経をとがらせていた時期だった。
ましてや方々から集まる多数の建設作業員を、従業員と同じ敷地内に出社させることはもってのほかという意見もあった。
苦慮の末、建設作業員には着替えや食事などを工場の敷地内にある体育館を利用してもらい、従業員とは完全に隔離することで安全を確保しながら作業を進め、ようやく今年3月には新ラインが完成した。
厳しい状況でもお客様には喜びを
今年はブラジルのコーヒー生産地帯に霜が降り、コーヒー豆が減少するとの予測から、7月から8月にかけてコーヒー相場が急騰した。ブラジルは世界第1位のコーヒー豆の生産地で、コーヒーの国内消費も大きいが、カフェ・イグアス社の主戦場である輸出取引においては国際的な価格競争にさらされる。
パンデミックを乗り越えてきたこれまでの実績を踏まえ、松井氏は「ブラジルは主原料のコーヒー豆の他、多くの物価が上昇し、業界も厳しい状況にあります。そのような中でも、皆さまに喜んでもらえるおいしいコーヒーを作っていきます」と握りこぶしに力をこめた。
◆カフェ・イグアス社(Café Iguaçu)
1967年にパラナ州北部コルネリオ・プロコピオ市で設立され、1972年に丸紅のグループ会社となる。年間2万2千トン以上のインスタントコーヒーを製造し、世界50か国以上へ輸出している。
【公式サイト】https://www.iguacu.com.br/