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キノコ雑考=ブラジルに於けるキノコ栽培の史実とその背景=元JAIDO及びJICA 農水産専門家 野澤 弘司 (21)

*)一方、日本ではアガリクスが世に出るまでの来歴や薬効について、自身や自社の都合の良い勝手なフエークニュースが横行した。生来ブラジル人の多くは、栽培キノコ以外は有毒と見做し忌み嫌っていた。しかしブラジルではこの名も無かったキノコを“Cogumelo de Deus=神のキノコ”と称し、不老長寿の秘薬として珍重しているとか、アメリカの著名な学者が非凡なアガリクスの薬効を知り現地で研究したなど流布させ、更に日本ではアガリクスの薬効や体験談を過大評価し販売した「バイブル商法」に因んで記述した「バイブル本」が多数出版され書店を賑わした。
 此れより薬事法違反で検挙される業者が続出し、表現の自由との狭間で社会問題を提起するきっかけともなるなどの混乱をもたらした。

衰退期;2006年

 日本の医薬業界と公的機関の謀略による風評被害で事業が頓挫。
*)2006年2月13日;日本の厚労省はキリンウエルフーズ(現ヤクルトヘルスフーズ)発売の「キリン細胞壁破壊アガリクス顆粒」なるアガリクス商品が、遺伝毒性反応で陽性を呈し、発癌作用の物質を検出した旨公示し、商品の即時販売停止と回収を告示した。また5種の発癌物質を与えたラットに同製品を経口投与したところ、前胃、腎、甲状腺に発癌作用は認めたが、直ちに発癌の恐れはないとも言及した。
 調査の対象となった3社のうち他の2社からの製品には何らの異常も見られなかった事も告示した。検体に陽性反応を呈した当社の製品は廉価な中国産のアガリクスを原料としていた事は、業界では既に周知の事実だった。
 これより往時の中国野菜のように栽培の過程で使用した有害化学成分の殺虫剤や肥料に含む重金属が発癌作用をもたらす物質として検出された過去に順ずるものと思われた。しかし食の安全を図る為に原料の産地表示を厳しく義務付けている厚労省は、何故か今回の試験で陽性反応を呈したアガリクス商品の原料が中国産であると特定せず、恰もアガリクス全般に及ぶイメージをアガリクス依存者や流通業界に故意に暗示し、食品衛生に敏感な日本では風評被害の衝撃は怒涛の如く津々浦々に伝播し、アガリクスの生産と流通は敢え無く終焉を迎えた。
*)2006年9月;日本でのアガリクスの発禁令が公布されて7ヶ月も経過し、アガリクスの生産も流通も風評被害により壊滅したにも拘らず、厚労省の肝入りによるのかアガリクス協議会を開催した。そして原料と個別製品に安全のガイドラインを制定して商品の安全性への確認事項が討議される事になった。
 議題は原産地の確認、製薬業との共存共栄の促進、重金属や大腸菌群の規則、原産地証明添付の励行、無毒試験及び臨床データーの整備等であった。これら個々の討議事項は奇しくも我々生産者が望んでいた全く同じ項目を、協議会が我々に代行し率先して提起してくれたのは意外だった。
 これより今回のアガリクス業界の終焉を招いた不祥事の起因はアガリクスの想定外の猛威での健食市場の席巻に伴う医薬業界の危機感と、バイブル商法による薬事法違反多発の対策として厚労省側が以前から画策していた、起こるべくして起きた暗黙の行政指導ではとの疑念は募った。此れ等の議題はアガリクスの流通と同時の30年前に、厚労省と関係業者が合意しておくべき基本的な事項であったと思う。