「ブラジル政府がアフガニスタン人へ人道配慮ビザを発給する省令を出した」という記述が、9月上旬に一つのインスタグラムで目に留まった(https://www.instagram.com/tv/CTnsZvgj8VL/?utm_medium=copy_link)。そこにはサンパウロで暮らす複数のアフガニスタン人が動画に登場し、「これまで公には出たくなかったサンパウロのアフガニスタン人たちが、アフガニスタンの実情をもっと広く理解してほしいということで、この映像の公開にも踏み切った」というコメントが添えられていた。
動画に登場していたアフガニスタン人の一人が、2012年にブラジルに来たアフマド・ファゼルさん(31歳、カブール生れ)。現在ブラス地区で縫製業、ハラール食肉店、アフガニスタン料理店を経営している。
「9月に入ってから中旬までに、ブラジルやイギリス、フランスなど、20以上のメディアから取材されました」。筆者が訪ねた9月14日と17日も、取材を受けている最中にも電話がひっきりなしにかかっていた。
アフマドさんのワッツアップの連絡先は、Reporter 1、2、3…と、何人ものレポーターが数字付きで並んでいる。ちょうど手元に届いた子供向けの定期購読誌「Qualé」に特集されたアフガニスタン情勢とアフマドさんのページもにこやかに見せてくれた。
アフガニスタン人などへの人道ビザ
8月15日、タリバンがアフガニスタン全土を支配下に置いたと宣言するニュースが世界中に流れた。ブラジル政府は混乱する同国の情勢に配
慮して9月初め、アフガニスタン人などへの人道ビザを発給する省令を公式サイトでも発表した。(https://www.in.gov.br/web/dou/-/portaria-n-24-de-3-de-setembro-de-2021-343022178?fbclid=IwAR0gzpDqp4i_ptkghJB9TCK0ioXzCrQZgrMbTdQrot3zkRUaUqadxUkD8r0)
素人では理解しにくいポルトガル語のため、名古屋市在住で難民問題にも携わる弁護士・永井康之さん(2015年から4年間サンパウロでCIATE専務理事として駐在)に要約を教えてほしいとお願いした。すると永井さんは仮訳してくれ、自身の事務所のサイトにも掲載して大変参考になった(http://www.nagaiyasuyuki.com/2021/09/16/afgao/)。
今回の人道ビザを取得できた場合、180日間有効で、ブラジルに入国してから連邦警察に届けると、2年間の居住許可がもらえること等が原文には記されている。
ハイチ、シリアに続く予定だが…
インスタグラムでこの人道ビザについてコメントしていたのは、難民と移民を支援するNGO(PDMIG)の副代表アブドゥルバセット・ジャロールさん(31歳、アレッポ生れ)で、自らは2014年にシリア戦争を逃れてブラジルで難民申請を行い、昨年帰化した。命の危機を救って受け入れてくれたブラジルには感謝の念が堪えず、「今回は近年のハイチ、シリアに続く3つ目の人道ビザになります」と当初は強調していた。
そんな思いやりを感じさせるブラジルのニュースが、一瞬でぬか喜びになりそうな話が続いた。
大使館が受け入れず、申請できない人道ビザ
アフマドさんによると、早速イスラマバード(パキスタン)のブラジル大使館には多くのアフガニスタン人が押し寄せた。しかし、人道ビザを申請する以前に、ポルトガル語が読めないことや、新型コロナ感染防止のためということを理由に大使館が正面切って応対しなかったという。
そんな中、「アフガニスタンに残されていた私の義妹と甥は20日前、急に消息不明になりました」とアフマドさんは心配そうに語った。(続く)