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反ワクチン派、目立たぬブラジル

国連でのボルソナロ大統領(Alan Santos/PR)

国連でのボルソナロ大統領(Alan Santos/PR)

 ボルソナロ大統領が反ワクチン派として国際的に有名になっている一方、ブラジルで「アンチヴァクサーズ(反ワクチンの人々、英語antivaxers)」の主張はそれほど強く盛り上がっていない、という不可思議な現象が起こっている。
 世界的に見ると現在、アンチヴァクサーズの影響力はそれなりに強い。それは欧米圏のワクチン接種の進んだ国にはそれなりの人数が存在し、その国のワクチン接種率を高めるのを妨げているほどだ。
 とりわけ米国の、いまだにトランプ前大統領を支持し続けるフロリダ州やテキサス州などで強い。早くからワクチン接種を行っているにもかかわらずこうした州でのワクチン完了率が50%台、それどころか1回目の接種を終えている人でさえ60%前後と低い。それが同国でのデルタ株での死者を増加させる要因にもなっている。
 ところが、大統領がワクチン未接種で国際的に有名になったばかりのブラジルでは、国のトップがこうした人物であるにもかかわらず、ワクチンの接種はかなり進んでいる。サンパウロ州ではすでに総人口の80%、成年では100%に近い人たちが1回目の接種を終えている 。
 2回目の接種に関しても、ブラジルの場合はファイザーやアストラゼネカの接種者に他の国より長い12週間の間隔を置いていたため、これからの数カ月間で接種率が急速に上がっていくことだろう。
 そしてブラジルの場合、米国でいうところの「赤い州(共和党支持州)」のようなあからさまな反ワクチンの州がない。さらにネット上でも、大手メディアは反ワクチン者に耳を貸すような報道を行わず、親ボルソナロ派がSNS上を反ワクチン情報で荒らすような光景もあまり目にしない。日本語のネット世界での保守派のそれの方がはるかに目立っているくらいだ。 
 そうした事情があるからだろう。ここ数カ月、ブラジルのコロナの感染者、死者の状況は、デルタ株の影響を受けることなく、高い山を下っていくように下降曲線を描き続けている。一時は1日平均で3千人亡くなっていた死者数も今は500人前後にまで下がってきている。死者数平均が再上昇し今や2千人台に逆戻りしている米国とは対照的な結果だ。
 思い返せば昨年の5月頃、世界に先駆け反隔離を訴え、カレアッタ(車両デモ)などを敢行していたのはボルソナロ派の人たちだったが、現在ではそうした人たちは見る影もない。60万人近くの人がコロナで命を落としたこと、ボルソナロ氏が熱を上げたクロロキンが治療薬として効用が証明されなかったことが響き、大統領支持者もワクチン支持者となったのか。
 また、トランプ氏が落選したときも思ったが、実はブラジルの保守派は、トランプ氏や米国極右の間で流行していることに、さほど興味がないようだ。(陽)