【日本政府支援事業「サンパウロ日伯援護協会」コロナ感染防止キャンペーン】新型コロナウイルスのワクチン接種が進む中、決定的な治療法がなく、コロナ禍の収束はいまだ先行きが見えない状況が続いている。特に医療現場では現在もコロナ患者の対応に日々、追われているのが現状だ。今回は、サンパウロ日伯援護協会傘下にある日伯友好病院の岡本セルジオ院長と、サンミゲル・アルカンジョ病院のロザルド・P・ペレイラ事務長に、それぞれの病院での感染対策とコロナ患者への対応事例などについて話を聞いた。
【日伯友好病院】
中年層に多いコロナ入院患者
日伯友好病院の岡本院長によると、2020年3月に新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まってから21年8月現在までに、同病院に入院したコロナ患者約3700人のうち、最も多かった年齢層は40~49歳の846人。同層では特に男性が534人と数多く、女性は312人だったという。
「プロント・アテンジメント(救急外来)で(日伯友好)病院に来るのは女性の方が多いのですが、入院となると男性の方が圧倒的に多かったのが特徴でした」
一般的には、コロナ患者のみならず一般の疾病(しっぺい)も含めた患者の入院期間は40~49歳の層が平均8日間であるのに対し、70~79歳の層は13日間と長くなっているそうだ。
しかし、コロナ患者については「90代の人でも軽症であったり、30代の若い世代でも亡くなっている人がいる」と岡本院長は、コロナ感染治療の難しさを実感している。
オンライン説明会の徹底
同病院では、パンデミックが世界で話題になり始めた昨年3月頃、病院の職員や一般を対象にマスク着用、消毒使用の必要性を説くオンラインおよび対面での説明会を何回かに分けて実施。
「コロナ対策専門チーム」の医師と医療スタッフの安全のための講習会もパンデミック当初にほぼ毎日、行なってきたという。「新型コロナウイルスに対してどういった治療ができるか、どの薬が有効なのかといった話し合いを繰り返してきました」
困難極めたピーク時
今年3月9日、ブラジル国内の感染第2波のピークの影響により、同病院で一日に460人のコロナ感染者とコロナ感染疑いのある患者を受け入れた。そうした中、同じ3月9日の日伯友好病院でのコロナ患者の入院者数は32人だったが、同18日には39人と最も多くなり、現場は困難を極めた。
さらに、同時期には患者用の酸素ボンベや人工呼吸器使用の際の麻酔薬が、「あと一日分で切れる」という事態まで追い込まれたという。幸い、他の病院から酸素ボンベを購入したり、分けてもらったりしたほか、インドなど国外から麻酔薬や呼吸器を輸入したりして事なきを得た。
しかし、同時期で3日間、日伯友好病院だけでは対応しきれない時もあり、コロナ患者を他の病院に移送して適切な処置を施してもらったこともあったそうだ。
コロナ入院患者数がピークだった当時、日伯友好病院で使用していた人工呼吸器の数は、他の病院から借りてきたものも含めて58台。その時、UTI(ICU、集中治療室)には64床のベッド数があり、その95%で人工呼吸器を使用できたという。
岡本院長は「新型コロナウイルスに対する情報が(他の病気に比べて)少なく、治療法がないことが現在の大きな問題。ブラジルは日本のようにコロナに対する準備が整っておらず、今後もっと大きなパンデミックが発生するかもしれない事態に備えて対応できる用意をすることが大切では」と先を見据えて話していた。
周辺住民への配慮
そのほか、日伯友好病院福祉部では地域住民への配慮と職員スタッフの安全確保等を目的に、セスタバジカ(基礎食料品セット)、口腔キット等の住民への配布を毎月続けている。なお、19年12月に定礎式を行い、22年に完成予定だった日伯友好病院新病棟の建設はコロナの影響により、着工、完成ともに未定の状態だ。
【サンミゲル病院】
一般患者との導線を隔離
サンパウロ市から約200km離れたサンミゲル・アルカンジョ市の公立SUS病院(援護協会が運営受託)でもパンデミック以降、患者と職員の安全を目的に感染対策措置を徹底して行なってきた。同病院のロザルド事務長は、今後も新型コロナウイルスは常態化すると考えており、さらなる対策強化の必要性を感じている。
13年8月に開院し、15年5月には同病院敷地内に救急診療所も開設された同病院では、パンデミック発生後に救急診療所の受付を閉鎖し、病院のみの窓口で対応している。さらに、一般患者との受付窓口を区別し、コロナ患者に対しては感染対策を施した看護師が応対するシステムを取っているという。
コロナ患者をはじめ、職員の安全を第一に考え、病院内に3人常駐している医師のうち、1人をコロナ専用医師として対応。看護師を10人から15人に増やしたほか、リハビリ担当者(3人)等も増やした。
重症患者は都市部病院に移送
ロザルド事務長によると、同病院では新型コロナについては主に軽症、中等症患者に対応しており、重症患者は同地域にあるソロカバやイタペチニンガなど都市部の病院に移送する措置を行なってきたという。それでも、人口3万3000人の同市で、今年8月15日までにコロナ禍で亡くなった市民は93人(ソロカバ、イタペチニンガの入院患者を含む)。パンデミック前の同病院での1カ月平均の死亡者数は4人だったのが、今年6月の同市でのピーク時には月に17人の死亡者が出たそうだ。
また、コロナ前の月平均の入院数は110人だったのが、コロナ禍による感染を恐れて、入院患者数そのものは減少。今年7月には79人の入院者のうち、その8割がコロナ患者だった。さらに、同月79人の入院者のうち17人がコロナで死亡し、残りの62人は回復して退院したか、他の病院に移送されている。
コロナ患者の若年化
一方、同病院ではコロナ患者の若年化が顕著だ。0~14歳=131人、15~29歳=817人、30~49歳=1313人、50~69人=849人という結果が出ており、29歳までのコロナ患者が約3割を占めている。
ロザルド事務長は「若い世代の人々は、新型コロナウイルスの病状を軽視しており、感染する確率も高くなっている」と危惧する。
同市で一般へのコロナ対策や学校など若者への啓発は、主に市の保健局が実施しているが、サンミゲル・アルカンジョ病院でもアルコール消毒など入院時の対策を実践。また、同病院の職員に対しても、それまで不慣れだったマスクの着用、エプロンやフェイス・シールドの正しい使用方法を講習するなど安全面での対策を強化してきた。
各方面からの寄付
そのほか、同病院に連邦政府からイメンダ・パラメンタル(議員割当金)として60万レアルが寄付され、医療用品、医薬品や医療設備の拡充が行われている。サンパウロ州政府からも麻酔機器キット5台が寄付されたほか、同市のロータリークラブからヘルメットタイプの人工呼吸器3台も寄贈されている。
ロザルド事務長は「(コロナ禍で)一番感じたのは、ウイルスに対する人間の弱さ。コロナウイルスの感染拡大は今後も継続していくと思われる。マスクの着用など、アジア地域では以前からの常識的なことが、ここブラジルでは慣れない試みだった。そうした中で、インフルエンザのように常に感染対策を行なっていく必要がある」と、さらなる感染予防を重要視している。