【日本政府支援事業 サンパウロ日伯援護協会 コロナ感染防止キャンペーン】ブラジルで事業を行う日系企業の「新型コロナウイルス感染防止対策」について、第3回目は、伊藤忠ブラジル会社の秋葉浩社長に話を聞いた。「商社は『人が命』。社員とその家族の安全を第一に考え、新型コロナ感染防止対策を徹底してきました」と、パンデミックに入ってからこの1年5カ月を振り返った。同社は日本の大手総合商社である伊藤忠商事のブラジル子会社で、パウリスタ大通りのビル内に事務所を構える。
当初は待避推奨、昨年10月に再結
秋葉氏はブラジルがパンデミックに入った直後の昨年4月に現職に就任。当地の入国制限と就労ビザ発給が遅れたため、渡伯できるまでの4カ月間は、日本からリモートワークで仕事に当たっていた。
「日本の先行きも不透明で、まだブラジルにも来ていない中、中南米の業務に当たっていました」と、秋葉氏は現職に就任したばかりの昨年4月を思い出す。
通常の業務に加え、最優先課題となったのが、駐在員に対する「日本への一時退避の推奨」だった。結果的に、当時16人いた駐在員の内、4人が一時退避したが、昨年10月に再び全員がブラジルでの仕事に戻ることになった。
「深夜業務になり、タフだったと思います」と、日本でリモートワークに取り組んでいた社員たちをねぎらう。
在宅ワークの社員との距離感を縮める努力
パンデミックに入ってから今日まで、現地スタッフは原則全員在宅ワークを継続している。一時期よりはブラジルの状況は落ち着いたとはいえ、デルタ株の脅威や公共交通機関での感染リスクなど先行きの不透明感があるため、在宅ワークからの変更目途は立っていない。
必要に応じて事務所に出社する社員数も、全約60人の2割未満にとどめられ、約1千平米のフロアが密になることはない。行政のガイドラインに沿って、ビルへの入館時の検温、アルコール消毒、マスクの備蓄は徹底している。通勤時は公共交通機関を使用することを禁止、会社負担でタクシーやウーバーの利用を規定してきた。
1年5カ月にわたって出社していない社員の中には、会社で何が起こっているかを自分の目で確かめられないことから、「会社との距離感」に不安を訴える相談も出てきた。会社はメンタルケアにも力を入れ、今まで以上に、まめなコミュニケーションを図るようにしてきた。
また、ブラジルのみならず、全世界の伊藤忠グループでは、パンデミック以前から空き時間で学習できるeラーニングのマイクロスタディを展開していたが、コロナ禍でより一層そのスタイルが活用されるようになった。
既存の事業や取引先を守る
秋葉氏は「コロナ禍で先が見通せず、取引先にも不安が広がる中、エッセンシャルワーカーとしてビジネスを停滞させることなく、既存の事業を守ることに徹してきました」と述べる。総合商社のため、部署によってコロナ禍の影響による業績の差はあるが、ビジネスは堅調だという。ブラジルからの食料輸出を左右する穀物生産も順調で、いち早く体制を立て直した中国への鉄鉱石の輸出も順調とのこと。
「今回の経験は、BCP(事業継続計画*)の基本を改めて確認し、強化するきっかけになりました」といい、特にリモートワークが主体となったことで通信セキュリティーの再確認とより一層の強化に力が入れられた。
臨機応変が企業理念
新型コロナとともに、気候変動や自然環境の変化、社会貢献など、SDGs(持続可能な開発目標)に向けた世界共通の解決課題にビジネスでも取り組まなければいけない時代が来ている。
「ビジネス環境が変化しても、臨機応変に伊藤忠の企業理念である『三方良し』を全うすることで、ブラジル社会にどう貢献できるかを考えてこれからも取り組んでいきます」と、秋葉氏はブラジルの伸びしろに期待し、力強く述べた。
(*BCPとは、Business Continuity Planningの頭文字。災害など有事の際に、企業が被る被害を最小化し、活動を継続していくための対策を指す)
★伊藤忠ブラジル会社 (ITOCHU Brasil S.A.)
大手総合商社伊藤忠商事のブラジル子会社で、繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野において幅広いビジネスをグローバルに展開している。【伊藤忠商事サイト】https://www.itochu.co.jp/ja/
コロナ禍でリーダーシップを発揮=スザノ市、芦内ロドリゴ市長
2020年3月以降、パンデミック下の市民生活では、政府関係者の迅速かつ効率的な対応が求められた。聖州スザノ市では、日系人市長の芦内ロドリゴ氏(PL:自由党)のリーダーシップにより、様々な新型コロナ感染防止対策が推進された。
芦内氏が実施したコロナ対策は、遠隔医療の導入、新型コロナに対する特設病院や「コビダリオ」と呼ばれる新病棟の創設、市内全域の消毒など。他にも様々な市民の保護を目的とした一連の対策が行われてきた。
コロナ感染が疑われる患者への対面医療の代替として導入された遠隔医療サービスでは、フリーのビデオ通話を通じて、3500人以上の患者に無料で医療相談が受け付けられた。
昨年4月から9月までは、スザノ・アリーナの敷地内に検疫病院が特設された。同病院の最高責任者は、「全80床の内70床が経過観察用で、10床は換気補助装置が備えられました。医師、看護師、看護技術者、理学療法士、ソーシャルワーカー、薬剤師、薬局技術者、清掃補助、洗濯補助の医療チームが形成され、管理職員とともに24時間体制で現場に臨みました」と説明する。
135日間で272件の診察が行われ、その内233人が適切な治療を受けて退院し、その他は別の医療機関への移送が必要とされた。
同市保健局はまた、市民のケアとサポートの機会を増やすため、新しいUBS(保健所)の完成や市の救急治療室の拡張および改修工事なども行った。昨年3月には、コロナ患者の治療を強化するため、コロナ専用の11台の新しいベッドが導入され、既に市内で稼働している集中治療室(UTI)や病棟などに、「コビダリオ」と呼ばれる特別棟が設置された。
ワクチン接種に関しては、スザノ市は国家免疫計画(PNI)に従い、1回目、2回目、3回目の投与を含む32万9700回以上のワクチン接種を行った。現時点では、保健省の許可を得て、12歳以上のすべての市民に任意で予防接種を行っている。
スザノ市は72年前に政治行政が自由化され、マクロプランコンサルタントが作成した調査「自治体管理の課題(DGM)」によると、聖州で最も発展した自治体の称号を有する。
芦内氏はパンデミックの中でも、治安、健康、社会セクターの行政サービスを全力で継続してきた。国内の衛生状態の質を評価する年次調査(Trata Brasil)のランキングでは、同市は全国100都市の中で10位にランクインし、アルト・チエテ地域でも1位となっている。
「近年のスザノの発展は、町が正しい道を進んでいることを示しています。私たちはコロナとの戦いにもしっかりと取り組んでおり、すぐに都市開発を再開させることができます」と、芦内氏は自信をみせた。(Nippak紙2021年9月20日号より)