新型コロナも終息に向かいつつある中、第2波で感染者急増中の3月に感染し、191日間入院していた日系人男性にようやく退院許可が出た。父の帰宅を喜ぶ一方で、今後のリハビリと260万レアル(約5230万円)という莫大な入院治療費の借金を前に、娘さんが途方にくれているという報道を読んで、「命の価値」について深く考えさせられた。
半年余りの入院で一命を取り留めたのは、サンパウロ市北部で新聞を売る小さな店(バンカ)を営んでいた72歳の日系人男性だ。入院が必要となった時は公立病院が満杯で、人工呼吸器に繋ぐための医薬品さえない状態だったため、娘さんは私立病院に入院させた。
こん睡状態に陥った上に院内感染なども起き、集中治療室と一般病室を行き来するなどして予想外の長期入院となったため、一時的に公立病院にも移した。だが、PCR検査は陰性になっていたのにコロナ病棟に入れられ、再感染の危険があったために私立病院に戻すなど、娘さんは気が休まる暇もなかった。
とはいえ、集中治療室での100日間を含む191日間の入院で父が一命を取り留めたと喜ぶ一方、260万レアルに上る借金を抱えてしまい、途方に暮れている。
父親が新聞のバンカを経営しながら貯めた非常時の蓄えはとうの昔に尽き、公立校教師の娘さんの経済力では到底払いきれない巨額な借金が出来たのだ。
呼吸を助けるために気管に穴を開けた事で生じた発話を助けるためのリハビリや人工透析、手足の動きを回復させるための理学療法も必要で、退院後も種々の費用や時間がかかる。
男性の入院中に娘さんが始めたヴァッキーニャ(募金)には、新聞バンカのカルロス氏なら知っているという人達からの寄付も含め、7万レアル余りが集まっている。だが、260万レアルの借金の前では焼け石に水だ。
「人の命は金では買えない」という言葉もある。だが現実に「病気を治す」には、無料の公立病院で我慢するか、それ相応のお金がかかる私立病院に入れるしかない。前者を選んでいたら父はとっくに死んでいたかもしれない。あえて後者を選んだ娘は孝行者に違いないが、それゆえに茨の道が待っている。
多くの人の厚意や支援で退院までこぎつけたカルロス氏だが、「退院したから全て円満解決」というわけではない。父親孝行の娘が茨の道を乗り越えられるよう、これからも必要な力と知恵・支援が与えられるよう願ってやまない。(み)
*7万レアルは6日朝の金額で、午後3時前には10万レアルに達した。