ホーム | 日系社会ニュース | 50年ぶりの祖国で浦島太郎(15)=サンパウロ市 広橋勝造=ブラジル版フランク・シナトラ

50年ぶりの祖国で浦島太郎(15)=サンパウロ市 広橋勝造=ブラジル版フランク・シナトラ

カラオケを絶唱する男性(まつなが ひでとしさん、写真ACより)

カラオケを絶唱する男性(まつなが ひでとしさん、写真ACより)

 ノバヨーキ(ニューヨーク)から日本メーカーの方が来伯し、弊社を訪れてくれた。
 商売には繋がらなかったが接待した。夜、食事が終わってから時々行くカラオケ・バー「風」に連れて行った。和服を着たママがいて、東洋街のカラオケで一番上品な所だった。
 サービス精神満点の俺は「よーし、英語の歌をお披露目して喜ばせるぞ」との魂胆で、とっておきのフランク・シナトラ「マイウェイ」を歌う事に決めた。
 イントロのゆっくりしたメロディー(チャン、チャン、チャーララ、チャン、チャン、チャーララ)が聞こえてきた。
 「ヒロハシさーん・どうぞ」と呼び出しがあった。丁度ナッツを口に入れた瞬間で、口をモグモグさせながら10センチほどの壇上に上がりながら、無理やりにナッツを飲み込んだ。
 喉にナッツの欠片が引っ掛かり苦しんだが、渡されたマイクを片手に体をリズムに合わせて少し横ぶりして、気分はフランク・シナトラになりきって歌い始めた。
 ――一生懸命、完璧な発音の英語バージョンで歌い終わり、内心「やった」とニヤリとした。そんな得意満面の顔でソファーに戻った。
 ところが、ノバヨーキから来た方は「広橋さん、『マイウェイ』にポルトガル語バージョンがあるとは知りませんでした」と真面目な顔で言ってきた。
 あ~あ…。俺は、それ以来絶対に英語の歌を歌わなくなった。ブラジル50年の年月で、体の隅々までブラジル弁が染みつき、どうしようもないのだ。