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特別寄稿=日本定住化30周年記念=長ネギ栽培で日本一の生産者に=カンノエージェンシー代表 菅野英明=TS学園で多文化共生教育を実践=(下)

遊休農地の借用農家との信頼関係づくり

 TSファーム社の斎藤俊男は、「先祖代々受け継がれる土地は、地主様の『命』であると考え、感謝の気持ちをもって大切に使わせていただく事が重要」であり、「代々受け継がれてきた溝掃除(溝さらい)等の慣習行事に積極的に参加する事が大切であると確信している。この2点が地主農家との信頼関係を構築するためのスタートラインだと考えている」と強調する。
 大手企業による農業への新規参入が相次ぐが、その後は撤退や失敗が見受けられる。それは地元農家や地主の大切な土地を大切に扱わなかったのではないか、と分析している。以下、一問一答。
■取引先との関係で最も重視していることは何か?
 まずは欠品をしない事。農業生産において、悪天候や病害虫の被害を容易に受けやすい長ねぎは、安定出荷が難しい野菜の一つだ。だが、店頭で消費者が待っている事を思うと欠品をすることは許されない。出荷の時間に間に合わない場合、飛行機便で送ることや、納品の為遠方へ車を走らせることもある。
■最近の市場環境についてどう思うか?
 ここ数年来、長ねぎの相場は高騰しており、消費者の皆様が店頭で通常よりも高い値段で購入している状況が続いている。コロナ禍に於いても長ねぎの需要は大きく、全国の量販店や商社からの問い合わせが相次いでおり、ここ数年「葱王」の新規取引先獲得率は(目標の)100%を維持している。
■2025年までの市場見通しは?
 農業分野の高齢化は想像以上に進んでおり、ここ数年でさらに加速すると予想しており、耕作放棄地や遊休農地がさらに増えるのではないかと危惧している。
 また野菜の多くを海外から輸入する日本にとって、大きな転換期が来るのではないかとも想像している。中国など主要生産国での国内消費が増加傾向にあり、さらに昨今の降雨や寒波によって輸入野菜が日本に入らない時期もあった。そこに輸入野菜からのシェアを取り戻すチャンスが到来するのではないかと考える。
■長ネギ売上高の3倍増生産計画は?
 これまで出荷場の整備や販路の拡大、規模拡大する為の農業機械の大型化を進め、そして3年後を見据えて60ヘクタール以上を管理出来る作業員スタッフの採用も完了した。この業界でトップランナーになるための準備に専念してきた。
 現在の目標は60ヘクタールだが、その次の目標は3倍の180ヘクタール。日本の農業栽培技術がさらに発展し、点在する農地の集約化が実現出来れば不可能ではないと考えている。


TS学園=多国籍児童に夢と希望与える=日本と世界の懸け橋人材育てる

TS学園とは

TSファーム創業者の斎藤俊男会長

 TS学園の建学理念は、逆境にさらされる外国籍の子どもたちに夢と希望を与え、学ぶことの大切さを知り、多文化共生の重要性を理解し、そして日本との世界の架け橋人材を育てること。

 1995年に設立したTS学園は、0歳児から5歳児を受け入れる認可保育園「れいんぼー保育園」と、小・中・高等課程までポルトガル語で一貫教育を行う各種学校「TSレクレアソン」の二つを展開している。
 1989年に出入国管理法が改正され、日系外国人を中心とする、いわゆるニューカマーを迎え、多文化社会への対応の必要性を感じ、既存の施策や制度だけではカバーできない多くの問題が表面化する中で学園の設立に至った。
 その背景には、
★当時から現在まで続く子どもの言葉の問題
★公立小学校でいじめを受けることがある問題
★公立学校に通っても授業について行けない、楽しくないという問題
★登校拒否になったままになるという問題
★中学校へ進むとさらに難しくなりドロップアウトが相次ぐ問題
★高校進学すら出来ずに単純労働者への道が決まる問題
 この結果、二世の社会上昇が起きずに悪循環を生んでいた。

インターナショナルスクール目指す

 TS学園では現在、ブラジル本国でも多くの進学校が活用する教材を導入し、教育の質を上げた事により、日本国内にあるブラジル人学校の中でも屈指の進学校となっている。
 ここの学園で学んだ生徒の中には、本国へ戻り医学部に進学する生徒もいるほどだ。「TS学園は日本と世界の懸け橋」となることを理念の一つに掲げており、現在日本政府も進める国際化教育の一環として、国際バカロレア機構の認定を目指し、バカロレア候補校段階まで準備を進める事が出来た。
 将来は国内の大学進学だけでなく、学生の多くが北米の有名大学へ進学出来るようにしたいと考えている。
 0歳から5歳児を受け入れる『れいんぼー保育園』は、日本の子どもたちと外国にルーツをもつ子どもたちが、それぞれの言葉や文化に触れ、違いを認め理解するチャンスを幼児の発達段階で与える教育施設だ。
 ボーダレス化しつつある国際社会において必要とされる、バランスのとれた人格の育成を心掛け、日本人の子ども達と分け隔てなく一緒に楽しく過ごせる保育園を目指し、これまで8カ国以上の子どもたちが通ってきた。
 オックスフォード大学出版の英語教材を使用し、英語遊びや英語学びを取り入れており、斎藤自ら「日本語・ポルトガル語・そして英語に触れる子どもたちの吸収する力に日々驚かされている」という。
 また斎藤は、「学校運営で父兄から感謝されていることは、れいんぼー保育園では日々保育してくれる先生やスタッフへの感謝が一番多い。理解力に優れ、包容力にたけた先生たちのお陰で、日本の子どもと外国にルーツがある子どもが一緒に過ごせる環境が整っているのだと思う」と見ている。
 『TSレクレアソン』では、グループのTS財団の奨学金を活用し、大学に進学した父兄から「経済的な理由で大学進学を諦めていたが学費を4年間全額支援してくれた事に感謝している」と言われたときは、「これまでの人生の中で何よりも嬉しかったと」いう斎藤だった。


日本メディアで高い評価=日伯間を代表する顔の一人

 NHK、日本テレビ、読売、毎日、朝日新聞、東洋経済、朝日系アエラ誌、毎日系エコミスト誌など日本の大手メディアから取材され、JICA、海外日系人協会、CIATE、ブラジル日本文化福祉文協などで講演やセミナーなどの講師を努める。日本在住の日系人では日伯間を代表する顔の一人といってよいだろう。
 なぜ斎藤俊男がこれほどまでにメディアなどからの人気と評価が高いのか。その理由について斎藤をよく知る関係者がこう語る。
 「斎藤はブラジル生まれでありながら『古き良き日本人』をそのまま受け継いだ人物だ。それは亡き父・政喜の教育の賜物だ。厳格な父のもと、日本の文化や風習、考え方を学び、柔道で心を研いだ。事業成功からリーマンショック、そして農業で事業再建、様々な困難に打ち勝つエネルギーを併せ持ち、人から注目されるのかもしれない。でも斎藤にとっては当たり前の事をやっているだけだろう」と見ている。

人生貫く報恩感謝の精神=行政と連携、問題解決に献身

 在日ブラジル日系人社会の中で斎藤の誇れることは、これまで31年間の長きにわたり地域の様々な課題を行政と連携しながら献身的に貢献してきた事だ。
 その結果が、埼玉県知事より任命を受けた「埼玉親善大使」と「多文化共生キーパーソン」に就任したことだ。さらに3年前、2018年7月には日本国外務大臣賞も受賞した。
 「しかし」と斎藤はいう。「これまで全て一人で成し遂げたとは一度も思った事がない。これまで支えてくれた家族や社員スタッフのお陰だと常に感謝している」。
 在日ブラジル日系社会の中で斎藤の誇れることは、「体一つで日本に来日し、日本の文化や習慣に慣れるまで様々な苦労があった。時には騙されたりもした。そんな中で地域の多くの日本人が手を差し伸べてくれたことにとても恩を感じ、ひたすら恩返しできるように努力をし続けてきたこと」だろう。
 上里町始め、地元でTSファームと斎藤俊男が信頼されている理由は、「地主との信頼関係を構築したこと」「高齢化が進む地域の農地の受け皿づくり(どんな荒れた耕作放棄地も再生)」だろう。

親の教えが日本で役立つ

■少年時代に両親から教えられたことは?
 父の政喜(山形県鶴岡市出身)からは「規律や礼儀の大切さを学び、先輩やお年寄りを大切にすること」を学んだ。母の敏子(岡山県総社市出身)からは「いつも良い行いをすると、良い結果が生まれる」ことを学んだ。
 それがいまの人生にどう役立っているのか。「日本に来てから大きな違いが出てきた。幼い頃から父母に言われたことの全てが正しかったことを日本に来て理解できた」。「他の日系ブラジル人にはなかった規律や礼儀に対する考え方、先輩を大切にすることなど、その多くが事業発展へと深く関わっていた」という。
■日伯関係強化のためにブラジルに向けて何か提言することは?
 日本とブラジルは、切っても切れない関係である。日本国内で講演をする際はブラジルの良い点を強調し、ブラジルへ行くと皆に日本の素晴らしさを説いて回る。
 草の根交流が大切であり、お互いが歩み寄れるよう努力することがとても大切だ。(文責=カンノエージェンシー代表 菅野英明)


父の教育と柔道で鍛えた日本精神に基づく経営極意3カ条とは
1:和を大切にすること(人との出会い・つながりを大切にすること)
2:信用を守ること
3:一番であること (皆が思いつかないことをやること)
人生の極意3カ条(生きていく知恵)とは
1:人に対し良い行いをすること
2:和を作り、その和を大切にすること
3:約束したことを守ること
 幼い頃から常に負けず嫌いであった事、常にいい結果が出せるように日々努力し、明るくリーダーシップを発揮する事が多かったという。


振り返ってみた半生=斉藤の平坦でない道程

■20歳から会社を立ち上げた起業家、地元でネギ生産の再生を始めた事業家となった原動力となる考え方は?
 人が思いつかないことをやるのが経営の基本的。つまり先手必勝でやっていくことが成功への道に繋がっていくこと。
■経営者としての「斎藤らしさ」とは何か?
 自分の経験した思いが社員や従業員に伝わっていること。会社の拡大発展を目指すこと、この考えを特に幹部や中堅管理職に浸透させること。そのために定期的な幹部会議を行っている。
■主なボランティア活動と受賞歴は?
★2008年以来では総理府とブラジル教育省公認の26校が加盟する「在日ブラジル学校協議会」(通称AEBJ)の理事長職。ブラジルと日本の両国政府に対して在日ブラジル人学校を代表する組織で、在日ブラジル人子弟教育の中核的存在になっている。
★2011年から在日ブラジル商業会議所(CCBJ)顧問。
★2014年から埼玉県友好親善大使
★2018年に日本国外務大臣賞受賞
■富子夫人へのメッセージを教えてください。
 事業を始めた頃、業務の合間を使い、手作りのパンやソーセージを作り、近隣住民に売るなどして常に助けてくれた。高熱費を抑える為に、石油ストーブの余熱を使いお米を炊くなどして、ギリギリ(の生活)を耐えしのんだこともある。
 買い物へ行っても、服など買ってあげる事すら出来ず申し訳ないと何度も思った事がある。たくさん苦労をかけて、大変な思いばかりさせてきた。これからはいままで以上に富子孝行に努めたい。(終わり)