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《記者コラム》なぜファーウェイが5G入札に不参加?=米中の顔色うかがい玉虫色解決か

国家電気通信庁(Anatel)の入札報告書の概要(https://drive.google.com/file/d/1FcsN90jVuOWsB3JsVrLgNILWSchwe5SG/view)

 本紙1面6日付記事《5G入札で初日に71億レ=底値の3倍を超える成功に》(https://www.nikkeyshimbun.jp/2021/211106-13brasil.html)を読みながら、「なぜファーウェイ(Huawei)は入札に参加しなかったのか?」と首をかしげた。
 5Gとは「第5世代移動通信システム」のことで、インターネットのスピードが速くなるなどの変化が生まれる。数字が大きくなるほど技術の世代が進むので、3G時代は「写真などの画像が閲覧しやすくなった時代」で、4Gは「動画が視聴しやすくなった時代」と言われる。
 5Gは、4Gに比べて通信速度が20倍も速くなる。4G時代は2時間超の映画の大容量データをダウンロードするのに数分かかるが、5Gになればわずか数秒になる。すでに2019年から米国、韓国、英国でサービス開始され、昨年から日本でも開始した。
 今回の入札を受けて、ブラジルでも来年7月から州都を皮切りにサービスが開始される。南米ではウルグアイが初めて導入したが、世界的に見ればけっこう早い部類に入る。今回入札した業者は、州都以外の地方都市でも2029年末までにサービス開始しなければならない。
 世界的な5G主導企業である中国のファーウェイは、23年前からブラジル進出して国内では4G基地局の3分の1が同社設備を使用している。もしブラジル政府が「ファーウェイ社製設備使用禁止」などの処置を決定した場合、既存の設備交換などで大きな損失を蒙る。基地設備の高い占有率をすでに握っている流れから、5Gに関しても当然入札に参加すると思われていた。
 だがトランプ政権時代から米国は、2020年10月21日本紙《米国が反中国の対応迫る=ファーウェイの5G参入阻止へ=来年の入札を前に》(https://www.nikkeyshimbun.jp/2020/201021-11brasil.html)にあるように、同社製品排斥を強く働きかけてきた。
 バイデン政権になってもその動きは続き、8月5日、ボルソナロ大統領とバイデン政権が派遣した特使二人が会談し、ファーウェイ排除の件を話し合ったと報道(https://www.nikkeyshimbun.jp/2021/210907-column.html)されていた。
 このような米国の圧力を受け、英国やスウェーデン、ポーランド、デンマーク、チェコなどはすでにファーウェイ機器排除を選択している。当然それに対して中国政府は強い反発を見せている。
 だが、このような経緯から同社が自ら参加しないことはあり得ないと思っていた。不参加であれば「なにかあった」と考える方が妥当だ。

5G無線周波数帯のうち85%が落札

5日付メトロポレス紙の記事の一部

 まず入札結果の概要を説明すると、ラ米最大の第5世代移動通信システム(5G)の無線周波数オークションが、ブラジル通信省(MCom)と国家電気通信庁(Anatel)によって4、5日に行われ成功裏に終了した。
 利用可能な5G無線周波数帯のうち、85%が落札され、総額472億レアルのオファーがあった。このうち398億レアル以上が、接続インフラ拡充に投資される予定。この落札価格の総額は、連邦政府が入札公告で定めた最低価格を50億レアルも上回った。
 ブラジルの4大セルラー会社のうち、すでにブラジル通信業界から撤退したOi社を除いた、Claro社、Vivo社、Tim社は5G入札で主要な周波数帯域を落札した。この大手3社はブラジル国内の音声およびモバイルデータ市場の98・3を独占する。
 中でも、5Gに最適とされる3・5Ghz周波数帯の全国4ブロックのうち、3ブロックをVivo社とTim社が落札した。
 そこで、なぜ件の中国企業が入札に参加しなかったかを調べて見ると、連邦政府がこのオークションに参加できる企業を「電話通信事業者」に限定したためだったと分かった。
 ファーウェイは「通信インフラ設備の供給企業」であり、参加資格がないので参加できなかった訳だ(6日参照、https://www.metropoles.com/brasil/ciencia-e-tecnologia-br/saiba-por-que-a-chinesa-huawei-nao-participou-do-leilao-do-5g)。
 ではブラジルは、米国が言うとおりに「ファーウェイを排除」したかと言えば、実はそうではない。5日付メトロポレス紙の記事の最後にも、《通信インフラ大手(ファーウェイ)がオークション入札に参加しなかったからといって、ブラジルでの技術導入のプロセスから除外されるわけではない。中国の会社は、電話通信事業者に機器を販売することができる》とある。

実は中国にも華を持たせた玉虫色解決

5日、国家電気通信庁で入札結果を発表するファビオ・ファリア通信相(Foto: José Cruz/Agência Brasil)

 中国が最も避けたかったのは、「ファーウェイ機器をブラジル国内から排除」という連邦政府の決定、そしてオークションの参加条件に「中国企業と契約している事業者の参加を禁止する」という項目を入れられることだった。それが避けられたから、今回の入札に関して中国政府は批判声明を出していない。
 つまりファーウェイは、VivoやTim、Claroに5G設備を販売できる。ブラジル政府はそれを禁止していない。ブラジル政府は米国の言うことを聞いて入札からは排除しつつ、実際には中国にも華を持たせた玉虫色解決のように見える。
 オ・グローボ紙サイト《企業はすでに5G設備生産前倒しの準備をしている》(6日参照、https://oglobo.globo.com/economia/tecnologia/empresas-ja-tem-equipamento-para-antecipar-5g-no-pais-25266536)には、《ブラジルでは、エリクソンをはじめ、ファーウェイやノキアなどの(5G設備の)サプライヤーは、1年以上前から様々な製品やサービスを提供する準備を整えている》と報じている。
 ボルソナロ大統領やその家族、大統領派政治家らは、中国排斥を強く主張しており、その部分ばかりがメディアでは目立つ。
 だが実際は政権内には親中派がかなりいる。特に食肉・大豆などの関係の深い農牧族議員、さらに鉄鉱石などの資源関係から支持を受けている議員は、みな親中だ。
 つまり、反中姿勢を強調する大統領だが、これは政治的なポーズにすぎない。最大の貿易相手国である中国に、財布の中身はすでに握られている。米中の顔色をうかがいながら、バランスをとって物事を決めている。その結果、今回のような玉虫色解決になるようだ。(深)