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今年2つ加わったブラジル芸能史の悲劇

生前のマリリア(自身のインスタグラムより)

生前のマリリア(自身のインスタグラムより)

 11月5日、現在のブラジル内で絶大な人気を誇っていた女性シンガーソングライター、マリリア・メンドンサが飛行機の墜落により26歳で急死した。彼女の音楽ジャンルである「ブラジル版カントリー・ミュージック」であるセルタネージャは、国内での消費がほとんど。だがインスタグラムのフォロワー4千万人超、スポティファイの月間リスナー1千万人超という数字は、彼女が作って歌う音楽がいかに愛され、言動が注目されていたかを示す、とてつもないものだ。
 そんな彼女がパウロ・グスターヴォと同じ2021年に亡くなったことは、ブラジルの芸能界にとっての大損失だ。かたや記録破りの快進撃を続けていた女性歌手、もう一方はブラジルの映画の興行記録を主演映画で塗り変え続けた国内最高人気のコメディアンだ。後者のパウロは今年5月にコロナウイルスで42歳の若さで亡くなっていた。
 そんな「現在のブラジル文化の顔」とでもいうべき2人を半年のうちに一気に失ってしまった。そして、今年起きたこの2人の早逝は、ブラジル芸能界になぜか目立つ悲劇の歴史に名を連ねるものでもある。
 まず、「飛行機事故での死」といえば、1996年2月、国内最大人気の絶頂時に飛行機の墜落事故でメンバ−5人が全員死亡したバンド、マモーナス・アサシナスがすぐに思い出される。この事故は当時日本に住んでいたコラム子の耳にも事故直後に届いたほどだった。
 あと、1972年7月には、性の解放を訴え女性たちから絶大な支持を得ていた女優レイラ・ジニスが、東京からロンドンへ向かう日航機の墜落で27歳の若さで世を去っている。また命は取りとめたが、国内屈指の人気バンドだったパララマス・ド・スセッソのヴォーカル、エルベルト・ヴィアーナが下半身付随の重傷を負っている。
 また、薬物中毒では1982年2月、かの「MPBの女王」ことエリス・レジーナが36歳で、2001年12月にはブラジルではじめてレズビアンであることを公言したロック歌手カシア・エレールが39歳の若さで世を去っている。
 さらに病死では、1990年に時代の寵児だった男性ロック歌手、カズーサが32歳でエイズで亡くなった。それは、かのクイーンのフレディ・マーキュリーが同病で亡くなる前年のことであり、国際的にも注目された。また、1996年にはブラジル史上最大のロック・バンドのレナート・ルッソも急死したが、カズーサ同様に同性愛者だった彼もエイズでの死が疑われている。
 パウロとマリリアの急逝のインパクトはこれらの悲劇に比肩しうるものだ。(陽)