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《記者コラム》第3極の本命に躍り出たモロ=汚職撲滅訴え穏健右派取り込み

「別人のように政治家らしくなった」

セルジオ・モロを全面に推しだしたポデモス党サイトのトップページの一部

 モロが10日にポデモス入党を正式発表し、来年選挙に立候補することを表明したことで、一気に大統領候補としての認知度が高まった。モロは入党式で「メンサロン、ペトトロン、ラッシャジーニャ、秘密予算はもうたくさんだ」と強調し、自分は「汚職撲滅を旗印にした右派候補」だと分かりやすく訴えた。
 ボルソナロの過激発言にウンザリしているが、ルーラに投票するには抵抗があるという穏健保守派にとって、格好の候補になりそうな雰囲気を醸し出している。
 10日の演説を聞いたジャーナリストたちが口を揃えて言うのが「別人のように政治家らしくなった」という評価だ。ラヴァ・ジャット(LJ)作戦の担当連邦判事だった時代のモロの演説は、専門用語ばかりで分かりづらかった。しかも、しゃべる態度がいかにもエラそうで親近感の沸かない孤高の人タイプだった。
 実は、この1年間滞在した米国では政治家になるための訓練をこっそり積んでいたらしい。
 11日のCBNラジオでベラ・メガーリは、《モロはアメリカ時代に政治家になるための訓練を受け、特に演説の練習をした。以前は攻撃的な物言いが反感を買い、政治家に向いていないと思われていた。だが今回は大分、政治家らしくなってきた印象を与えた》とコメントした。
 加えて《だが判事時代に訴訟で苦しめられた連邦議員は多い。彼らは今もモロを敵だと思っている。でも入党式をするまでに政界の大物と一通り面会して、出馬の大筋を決めてきた》と解説している。政界での根回しは入念に行った様だ。
 そして「モロにとって最後の敵は、最高裁かも」と示唆した。中でもジルマル・メンデス最高裁判事はLJ作戦にすら否定的で、モロと最も対立してきた法曹界の重鎮だ。メガーリは「ボルソナロ政権の法相になった時と同じ過ちを今回も犯そうとしている。彼は米国で弁護士を続けるべきだったと言う声が、最高裁内ででている」との声を紹介していた。
 12日付CBNラジオでアンドレア・サジは「モロはボルソナロ政権の法相を引き受けた時点で、法曹界の人間であることを辞め、すでに政治の世界に入っていた。今回は党派を決めただけ。大統領府内には『モロは大統領候補として最後までやらず、途中で上院選挙に乗り換える』との見方が結構ある」とコメントしていた。
 確かにモロはまだ大統領候補とは名乗っていない。「来年の選挙に出馬する」と表明しただけで、上議という逃げ道が残されている。

第3の候補群から頭一つ抜け出したモロ

2019年8月19日、大統領府のセレモニーで、固い握手を交わすモロ法相(当時)とボルソナロ大統領(Foto: Carolina Antunes/PR)

 ヴァロール・インベスチ誌サイト19日付に寄れば、19日に発表された大統領選挙の投票動向調査(ポンテイロ・ポリチカ社)で、モロが11%を獲得して、他の第3の候補(第3極)から頭一つ抜け出した形になった(20日参照、https://valorinveste.globo.com/mercados/brasil-e-politica/noticia/2021/11/19/lula-lidera-para-2022-e-moro-atinge-18percent-sem-bolsonaro-na-disputa-diz-pesquisa.ghtml
 同調査によれば、ルーラの支持率は、文句なしの第1位で35%から39%が投票する意向を示した。興味深いことに、最高の39%の数字は、候補者にシロ・ゴメスがいなかったときに出た。左派同士で票の食い合いをしなければ、ルーラ得票は最高になる図式だ。
 2位はボルソナロの26%、3位がモロで13%だった。聖州知事のジョアン・ドリアは4%、前保健大臣のルイス・エンリケ・マンデッタは3%と同率で並ぶ。
 モロにとって最高のデータは、決選投票の予想支持率だ。この調査によると、彼はルーラに対して最も有利な立場にあり、ルーラ45%対モロ31%と14ポイントの差しかない。10日まで一切選挙運動していなかったのに、現時点で決選投票においてルーラと競り合える候補になっている。
 これに対してボルソナロはルーラに18ポイント差で敗北、シロ・ゴメスは23ポイント差、ジョアン・ドリアは31ポイント差で負ける。
 今回の調査で分かったもう一つの興味深い点は、ボルソナロが立候補しなかった場合のシナリオでは、ルーラが37%を繰り返す一方で、モロは18%の支持を受けたことだ。つまり、ボルソナロの右派票がモロに流れ込んでいる。
 もう一点関心を呼ぶのは、ボルソナロが出馬しない場合、シロ・ゴメスの支持も上がって11%になることだ。右派票の一部は、ルーラは絶対にいやだが、シロなら入れてもいいという人が一定数いることが分かる。なお、ドリアは3%を維持しているので、ボルソナロ票は流れてこない。

汚職撲滅を旗印にした第3の候補

 モロのご意見番に、大統領の息子たちと対立して大統領府秘書室長官を解任されたカルロス・アルベルト・ドス・サントスクルス陸軍予備役中将が就いていることも興味深い。軍部と良好な関係を保っていることをアピールでき、保守的な雰囲気を出せる。
 エスタード紙11日付《元ボルソナロ支持者がモロに路線変更》(20日閲覧、https://www.correiobraziliense.com.br/politica/2021/11/4962712-ex-apoiadores-de-bolsonaro-migram-na-direcao-de-moro.html)には、次の同中将の言葉が紹介された。
 《18年の選挙運動にはPT政権を終わらせる意気込みがあった。PTは、金融スキャンダルや汚職スキャンダルで消耗していた。その汚職の時代を終わらせて新時代を迎えようというボルソナロの意気込みが、一般に広く支持されたから当選した。だが、ボルソナロはそれに関して何も達成できなかった》から縁を切っていたという。
 そこに、モロという汚職撲滅の〝希望の星〟が登場した。実際、モロが登場すると大統領選の図式が分かりやすくなる。
 ボルソナロは《PTのペトトロン疑惑を批判して汚職撲滅を掲げて当選したにも関わらず、汚職は続いた。さらにLJ作戦特捜班も解体してしまった。本人の家族もラシャジーニャ(職員給与ピンハネ疑惑)に巻き込まれている》という汚職に関する弱みを抱えている。
 しかもコロナ禍CPIによって9つの大罪「流行病致死」「予防的衛生措置違反「医療関係虚報拡散」「非人道的な犯罪行為」などの汚名を着せられた。有罪でなくとも選挙運動中には不利に作用する。
 ルーラも《LJ作戦に関するモロ裁判は無効化されたが、これから別の裁判官によって有罪になる可能性があり、けっして無罪放免の判決が出た状態ではない》という汚職疑惑を持っている。
 だが、モロには《JL作戦を率いて汚職撲滅を指揮した》というイメージが今も残っている。
 とはいえ、LJ特捜班内の通信がハッキングされて、本来なら中立な裁判官であるべきモロ判事が、訴訟を起こす側の検察官と癒着していた疑惑が生じている。
 LJ作戦においては「捜査手法の強引さ」「やり過ぎ」「偏り」があったことは最高裁でも認められた。それ自体は犯罪でなくとも、批判は避けられない。
 だが、やり過ぎたとは言え、「汚職撲滅を一生懸命にやった」という方向性に関しては強い支持が集まる。モロやLJ特捜班検事が犯罪に問われていない以上、選挙戦における国民の関心が「汚職撲滅」になれば、モロには有利な展開だ。

分裂しそうなPSDBから「穏健右派」票狙う

入党式の様子を報じるポデモス党サイト(https://www.podemos.org.br/noticias/a-filiacao-de-sergio-moro-ao-podemos-e-a-realizacao-de-um-sonho-de-muitos-brasileiros-afirma-renata-abreu/)

 モロが取り込もうとしているのは「穏健右派」だ。2018年の選挙では左翼対右翼という対立軸が過激化して、どんどん「両極化」した。その過激化に反対する動きとして、「中道」第3の候補の流れが生まれ、注目を浴びはじめている。
 モロは20日、MBLの第6回全国大会にも出席して支持を訴え、会場から拍手を浴びた(21日参照、https://www.poder360.com.br/eleicoes/moro-afaga-mbl-e-fala-em-aglutinar-nomes-da-3a-via/)。
 カルタ・カピタル誌21日付《Z世代はモロを第3極リーダーに選んだ》(https://www.cartacapital.com.br/politica/com-foco-na-geracao-z-congresso-do-mbl-elege-moro-como-lider-da-3a-via/)とこのMBLの動きを報じた。
 MBLは、14年から活動を始めた右派若者による新しい政治運動だ。当初はジウマ罷免を呼びかけて大衆の支持を集め、18年選挙ではボルソナロを支持していた。
 MBLの代表的政治家、キム・カタギリ下議、アルツゥール・ド・バウ聖州議は、モロのポデモス入党式にも出席していたので全て根回し済みの動きだ。
 モロが穏健右派に注目しているのは、かつてその受け皿だったPSDBが迷走を続けていることも関係がある。
 2014年、アエシオ・ネーヴェス党首が大統領候補として、ジウマPT候補とギリギリまで競って僅差で負けた。あそこが分水嶺だった。その後は迷走を続け、落下傘部隊のように突然舞い降りたドリアに党内を牛耳られてしまった。それへの党内の反発は強い。
 PSDBが21、28日に行っている大統領候補を決める党内選挙では、ドリア聖州知事が大統領候補の座を射止める可能性が高い。
 だが、党内選挙を実施すること自体が国政を左右する大政党の証であるにも関わらず、21日には投票アプリの不具合が起きて投票が中断されるなどの恥をかいた。今回は激戦の末、党が分裂する可能性があると報道されている。
 対抗馬のエドアルド・レイチ南大河州知事と、それを推すミナス州勢(ネーヴェス元党首ら)が離反を起こす可能性が、複数のジャーナリストから指摘されていた。だがイストエ誌サイト20日付《アエシオはドリア勝利でも離党は否定した》(https://istoe.com.br/aecio-descarta-sair-do-psdb-em-caso-de-vitoria-de-doria-nas-previas/)とあるので大分裂の可能性は低い。
 とはいえ同党からは重鎮のジェラウド・アウキミン元聖州知事がブラジル社会党(PSB)に移籍して、ルーラ候補の副になる話が出ている。ドリア勝利の場合は、かなりの確率で起きると見られている。ルーラは、中道のアルキミンと組むことで「穏健右派」の票を取り込めると読んでいるのだろう。
 となれば、PSDBも少なからず割れる。だから、政治ジャーナリストの中には「ドリアは党内選挙で勝って、22年の選挙で負ける」という予測をする者が多い。党内選挙の結果がどうであれ、党が痛手を負うことは避けられなさそうだ。
 その辺の「穏健右派」層がモロ支持に流れ込めば、かなりの数字が見込める。混乱が起きるPSDB党内選挙が11月末にあることを見越して、モロはポデモス入党を月初めに行ったと分析できなくもない。

PSDBに近い経済政策

 モロが、選挙陣営の経済顧問にアフォンソ・セルソ・パストレ(82歳)を選んだ人選にも、PSDB勢力を割ろうという意図を感じさせる。
 これを発表したのが、グローボTV局の人気深夜トークショー番組「コンベルサ・コン・ビアウ」に17日に出演した場であったこと自体、モロの変わり身を象徴する。かつて連邦判事時代には、ほぼテレビ番組出演を断ってきた。
 ボルソナロやルーラが嫌うグローボTV局の、しかも深夜の人気バラエティ番組に出演し、お土産の新発表までした。
 このパストーレは、1983~85年に中央銀行総裁を務めたマクロ経済の専門家だ。USP経済学部卒で、軍政時代に「ブラジルの奇跡」を起こしたデルフィン・ネット元蔵相の教え子「デルフィン・ボーイズ」の一人。現在はPSDBに近い経済政策議論グループの一員で、FHC大統領時代のペドロ・マラン蔵相、テメル時代のイアン・ゴルドファイン中銀総裁らと親しい関係だと報じられている。
 エスタード紙18日付《22年の第3極でモロは経済エリート層を納得させる選択肢を模索》(https://politica.estadao.com.br/noticias/eleicoes,moro-busca-se-consolidar-como-opcao-da-elite-economica-na-3-via-em-2022,70003901660)にある通り、財界に受けの良い人事だ。
 パストーレは9月にUOLサイトでゲデス経済相を批判し、「彼には経済政策がないから、経済大臣がいないも同然。彼の本質は、ボルソナロ政権のプロパガンダだ」と厳しい批判をしていた。
 本人のコメントを読む限り、ゲデスよりは政治家に左右されない印象を受ける。

ボルソナロPL入りで対立軸が明確に

2016年3月17日、ルーラ元大統領の官房長官就任は、モロ判事の録音公開によって阻止された。だが違法だったことが分かり、その強引なやり方に批判が高まった(José Cruz – Agência Brasil)

 モロがポデモス入党を発表した10日、来年の選挙を左右する、もう一つの重要な公表があった。「大統領のPL入り交渉が最終段階にある」との報道だ。モロ入党とこれは「コインの裏表」のような関係にある。
 モロが第3極の本命になることは当初から予想されており、その正式発表にぶつけて、大統領派も布陣を固めているとの印象を打ち出す情報戦を行ったと読める。
 というのも一次選挙で2位に残らないと決選投票には残れない。現状では断トツ1位のルーラより、2位の座を脅かす3位候補、つまりモロが最大の脅威だ。
 だから、コレイオ・ブラジリエンセ紙サイト20日付《〝手遅れになる前に〟モロ攻撃を カルロス・ボルソナロが虚偽報道闇部隊に指令》(https://blogs.correiobraziliense.com.br/vicente/carlos-bolsonaro-aciona-gabinete-do-odio-para-tentar-abater-moro-antes-que-seja-tarde/)にあるような動きが発動される。
 大統領が所属政党としてPLが最終的に選んだことの意味は大きい。多くの国民からすれば「何だ、18年にはあれだけセントロンを汚職政治家の巣として糾弾しておきながら、結局はセントロンに戻ったのか」と感じる。
 ボルソナロはもう「汚職撲滅」を旗印にできなくなり、その旗印を信じて追随してきた支持者も離れる。それに「汚職撲滅」が選挙の中心テーマになってくれば、ルーラも安穏と投票意向調査1位の座に胡座をかいていることはできない。
 ボルソナロとルーラは2018年同様に、お互いが激しく対立して見せて、両極に国民の注目を集めることにより、第3極への関心を削いで無力化したいだろう。
 それに対して、第3の候補は大統領とルーラに共通する「汚職」を徹底的に追求して、第3極を確立するという方向性が予想される。「汚職撲滅」という旗印において、モロほど際立つ役者は少ない。
 一方、穏健左派を代表するのがシロ・ゴメスであり、第3極の中ではモロと共に突出している。万が一、モロとシロがシャッパを組めば幅広い左右穏健派層を取り込むことができ、中道票の大きな塊を作れる。しかも左派票を奪われるルーラには痛い展開になる。
 いずれにせよ政治経験が皆無のモロには、副候補に老練な政治家をもってくる必要がある。シロは悪くない選択肢だ。今はまだその方向性は出ていないが、将来的にはあり得るだろう。
     ☆
 気になるのは、いくらパラナ州マリンガ出身のモロとはいえ、知名度は全国区なのだから、なにもパラナ州地方政党のイメージが強いポデモスでなくても良かった気がする点だ。上議こそ9人もいるが、下議は10人しかない13番目の小政党だ。今後、他の大型政党との積極的な連係がカギを握るだろう。

チリリッカ連邦下院議員(@tiriricanaweb)

 それにしても現在、支持率断トツ1位のルーラは、ついこの間までペトロロン汚職疑惑で刑務所に入っていた政治家だ。
 第2位のボルソナロも、交渉に交渉を重ねて最終的に選んだのがPLというセントロンど真ん中の政党であることは、今後さんざ揶揄されるだろう。バウデマルPL党首はメンサロンで実刑判決を受け、刑務所内から党に指示を発して統率していたというマフィアもどきの人物だ。「汚職撲滅」を旗印に6千万票を得て大統領に当選した人物が、身を寄せられる党はここしかなかった。
 PL同僚となるお笑い芸人のチリリッカ下議なら、この皮肉な状況を気の利いたギャグにしてくれるだろうか?(敬称略、深)