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アマゾンは熱帯雨林のままの方が生産的

法定アマゾンで収穫されたアサイーの実(Luiz Braga/Divulgacao)

法定アマゾンで収穫されたアサイーの実(Luiz Braga/Divulgacao)

 国立宇宙研究所(Inpe)が18日、2020年8月から2021年7月の法定アマゾンでの森林伐採面積は1万3235平方キロで、その前の1年間での1万851平方キロを21・97%上回ったと発表した。
 ジョアキン・レイテ環境相はグラスゴーでの第26回国連気候変動枠組条約締結国会議(COP26)で2028年までの不法伐採撲滅を約束、「伯国の緑の将来は既に始まっている」と語った。だがこの数字は、法定アマゾンの森林伐採面積は現政権が始まった2019年の1万129平方キロ以降、3年連続で増えている事を示す。今年の数字は統計史上最低だった2012年の4571平方キロの3倍近い。
 ボルソナロ大統領は当選直後、世界の食糧確保のためにアマゾンを開発すべきだし、先住民も経済発展を望んでいるとして、アマゾンの開発を正当化した。大統領は地球温暖化も否定しており、現政権の歩みはその路線を踏襲している。
 だが、世界の流れや世論は大統領の見解とは相反し、環境や先住民の保護に関する現政権批判は高まるばかりだ。また、91年ぶりの少雨・干ばつ、北東部やリオ州の海岸部で報告される海岸侵食による沿岸住宅での浸水、倒壊などは、伯国でも地球温暖化の影響が出ている証拠といえる。

法定アマゾンで採れたカカオ(Paulo Santos/Interfoto)

法定アマゾンで採れたカカオ(Paulo Santos/Interfoto)

 14日にはリスボンで『21世紀のアマゾン』と題する書物も発行された。伯国では12月9日刊行予定の本は15の論文により、「法定アマゾンは森林のままである方が伐採、開発された場合よりも生産性が高く、経済面、文化面、持続可能な環境という面でも価値が高まる」事を明らかにしているという。
 本紙連載をまとめた本『アマゾン日本人移住八十周年』(ニッケイ新聞、2012年刊行)にも詳述している通り、パラー州トメ・アスー移住地の日本移民は1970年代から「森林農法」(アグロフォレストリー)という熱帯雨林と共生する農業を始めて実績を上げ、地域に広く普及している。その成果の一部は11年1月7日付本コラム(https://www.nikkeyshimbun.jp/2011/110107-column.html)にも書かれている。
 11月上旬には、法定アマゾンのコミュニティ四つが来年から、域内で生育したカカオを使ったチョコレート生産というプロジェクトを始動させるとも報じられた。心ある人達が法定アマゾンの植生を生かした生産活動への取り組みを地道に進めている証拠だ。
 森林伐採面積最多のパラー州についても、植生を生かした産業に注目すれば、地理統計院(IBGE)算定の国内総生産(GDP)以上の数字を記録できるという。
 長年かけて育った樹木伐採など、自然を破壊した開発は一時的な金を生むが、元の姿の回復は難しい。だが、共生、共存を目指す生産活動なら、人も森も新たな命を生み出し、生き続けられる。
 COPで約束した違法伐採撲滅は温室効果ガス削減の近道でもある。森林伐採は真綿で自分の首を絞める行為である事を自覚し、官民が手を取り合って共生、共存にハンドルを切るべき時が来ている。(み)