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特集=ワクチン接種の大切さ強調=日本政府支援事業「サンパウロ日伯援護協会」コロナ感染防止キャンペーン=内村リカルド内科医に聞く感染対策=患者対応で過労、自ら感染も=次のパンデミックへの備えを

内村リカルド医師(提供写真)

 「今年3月~5月頃の第2波ピーク時は、朝7時から夜の9時まで働きづめの生活が続きました」―。こう語るのは、主にサントアンドレ市の私立病院で内科医として勤める内村リカルド氏(51、三世)だ。
 同病院で軽症、中等症の新型コロナウイルス患者に接してきた内村医師は、ソーシャル・ディスタンス等「3密」を避ける基礎感染対策とともに、「何をおいてもまずは予防接種(ワクチン接種)を行うこと」と、その大切さを強調している。自身も新型コロナに感染した経験を持つ同医師に、医療現場での苦労や今後の方向性など話を聞いた。

◆内村医師の活動

 内村医師は、1993年にサンパウロ大学医学部を卒業。2007年から「レジ・ドル・サンルイス(Rede D’or São Luiz)」グループ傘下の「オスピタル・ブラジル」(サントアンドレ市)に内科医として勤務している。同グループはリオ・デ・ジャネイロ市に本部があり、傘下約60のグループ病院がブラジル全土に展開しているという。
 内村医師の専門は腎臓(じんぞう)だが、一般内科として風邪やインフルエンザなどの肺病の他、心臓、胃腸など内臓系全般を幅広く対応している。同病院の患者は非日系人が大半を占めるが、サントアンドレ市をはじめ、近隣のサンカエターノ市、サンベルナルド・ド・カンポ市など「ABC地域」の日系人患者も2割ほど含まれている。
 また、内村医師は日本語能力の高さを見込まれ、2015年からはサンパウロ市パウリスタ大通りにある「桜田クリニック」(桜田雅美ローザ院長)の内科医としても活躍している。日本からの進出企業の駐在員を主な対象に、診療を行ってきた。
 コロナ前は対面で応対していたが、コロナ禍以降はオンラインによる診察を患者の希望にあわせて実施。日本語による適切な診察と処方箋(しょほうせん)の指示・説明など、懇切丁寧な対応がポルトガル語の分かりにくい駐在員患者にも安心感を与えている。

◆基本的な感染対策

 昨年3月の新型コロナ感染のパンデミック以降、内村医師は「オスピタル・ブラジル」で軽症と中等症のコロナ患者に対応してきた。感染対策としてN95微粒子用マスクの着用をはじめ、頭部の防護ネットと身体全体を覆う防護服を着用。
 患者への診療前後のアルコール消毒、看護師による患者の体温検査、血圧測定、パルスオキシメータによる酸素飽和度測定等を徹底して行なっているという。
 今年3月~5月のコロナ第2波のピーク時には、内村医師を含めた同病院の内科医7人で一日に約60人のコロナ患者を応対。その頃はコロナ患者を診るのに精一杯で、他の一般患者を診る余裕がなかったほどの多忙を極めた。

◆対処療法で応対

 軽症、中等症のコロナ患者は、咳(せき)や熱、腹痛・下痢、味覚・嗅覚障害、倦怠(けんたい)感など風邪に似た症状が多い。そのため、咳止めや解熱剤等での対処療法を施し、中等症患者で入院する場合は、ウイルス性肺炎の懸念を見越して、抗凝固剤やステロイド剤の使用などで対処してきたそうだ。
 しかし、軽症、中等症であっても急激に体調が悪化し、重症化するケースもあった。酸素ボンベや人工呼吸器が必要な患者には同病院内のICU(集中治療室=UTI)に移送し、別の重症化患者専門医が応対した。
 実際に去年4月頃、内村医師が診療した50代の日系人女性は中等症患者として入院後、1週間で急激に体調が悪化。ICUに移され、肺が重症化する「急性呼吸窮迫症候群」と脳卒中の症状が出た。リンパ腫を患(わずら)っていたこともあり、ICUで3カ月ほど入院したが、その後、何とか回復することができたという。
 「コロナが出始めた当初は、その治療法も確立しておらず、ケースバイケースでどう対応して良いかが分からず、その患者さんは何回も死にかけましたが、回復することができて本当に良かった」と内村医師は、コロナ患者の容態の変化の激しさを目の当たりにしてきた。

◆医療現場の苦しさ

 新型コロナによる容態悪化の反面、重症化患者が治療によって回復するケースも少なからずあった。重症から中等症、軽症へと症状が良くなるごとに、内村医師ら内科医が患者を引き継ぐことも多く、回復した患者と新規患者双方の診療で医療現場は多忙を極めた。
 「第2波のピーク時には、その日の朝にコロナ患者が4人退院したと思ったら、午後には5人が入院してくるということもありました。仕方のないことですが、同じことの繰り返しで終わりが見えないような状態で、かなり現場の過労は溜まっていたのかも知れません」と当時の医療現場での苦境を振り返る。

◆自身もコロナに感染

病院でコロナウイルス感染症の患者を診る前の内村医師(提供写真)

 そうした中で、今年6月には内村医師自身も新型コロナに感染した。当初は鼻炎や咳(せき)が出るなど風邪の症状があり、2日間37・5度の微熱が続いたためPCR検査を行なったところ、陽性反応が判明。酸素ボンベは使用することはなかったものの、中等症と診断され、入院した。ステロイド剤を投与したことで完全に回復。1週間後には退院することができたという。
 内村医師は自らの感染について、「(第2波のピーク時に)多忙で週末もほとんど休めず、体力が落ちていた上に疲れが溜まっていたことが原因だったと思います。身体が弱ると免疫力が弱り、どうしてもウイルスに罹(かか)りやすくなります。皆さんも疲れなどをためないようお気をつけ下さい」とアドバイスする。

◆ワクチン接種で沈静化

 第2波のピーク以降、ワクチン接種がブラジル全国に拡大したこともあり、現在のところ新型コロナのパンデミックはおさまっている状態だ。
 特にサンパウロ州では、2回目のワクチン接種者が約80%に達し、高齢者等への3回目のワクチン接種(ブースター接種)もすでに行われている。ブラジルでは新型コロナの治療薬は、現時点では開発中で認可を受けてはいるものの、まだ現場には出ていない。そのため、現状ではやはり「ワクチン接種が大切」と内村医師は語る。

◆知識の共有の大切さ

 内村医師はコロナ禍を通じた大切なこととして、科学と医療の進化によるワクチン接種の技術発展の必要性を挙げる。
 「今後、感染症については新型コロナウイルスだけでなく、他のウイルスでのパンデミックも起こり得ます。そうした状況の中で、世界の科学者たちが知識を共有し、次のパンデミックを見越して疫学や(感染元となりうる)様々な動物の研究を行っていく必要があります。これは医療分野だけに限らず、環境保護などの研究も行わなければなりません」
 また、新型コロナについて内村医師が個人的に考えることとして、次のパンデミックへの準備を整えることの大切さを強調する。
 同医師は「時期は分かりませんが、新たなパンデミックもあると思います。患者への感染・治療対策ができるように、知識を持って準備することが大事だと思います」と話している。