在サンパウロ総領事館サイトの2021年11月5日の「水際対策強化に係る新たな措置(19)」では、商用・就労目的の短期的な滞在や就労・留学・技能実習等の長期的な滞在について、受入責任者を通じて各業所管官庁による審査を受ける(「審査済証」を取得)との要件の下で、入国者総数の枠内で新規入国が認められると公表された。
しかし、11月29日にオミクロン株の影響による「水際対策強化に係る新たな措置(20)」が公表され、再び査証申請が一時停止された。
2021年11月5日から29日までの約3週間は、在聖総領事館も、「査証については、受入責任者を通じて各業所管省庁による審査を受けた後、申請者が査証申請に必要な書類と「審査済証」を持って、在外公館に査証申請をすることが可能です。日系三世の方もこの仕組みを利用できます」と説明していた。
だが、オミクロン株の出現で、「2021年11月29日の「水際対策強化に係る新たな措置(20)」に基づき、「審査済証」の申請の受付及び審査が令和3年12月31日まで停止されており、現在「審査済証」での査証申請は受理しておりません」と、一歩前進した入国制限措置は後戻りした。
査証手続きの代行も行っている人材派遣会社アバンセ・ド・ブラジルは、「この『審査済証』を持っている三世の方は査証申請が可能となりました。ですが、その手続きが難しく、実際に上手く進められている方は少ないのが現状でした。しかし、亀の歩みで手続きを再開していたところ、今度は29日の水際対策措置により、再び日本への渡航中止の手続きを進めなければならなくなりました」と、オミクロン株により、日系三世も在サンパウロ総領事館も人材派遣会社も右往左往させられている状況を説明した。
ブラジルの高い生活費や不安定な収入
日系三世の早川エリカさん(仮称、32歳)は、非日系人の夫レアンドロさん(仮称、32歳)とともに日本で就労し、その後は日本に定住したいという思いがある。
早川さん夫婦は、2019年5月に1カ月間、東京を中心に旅行した。治安の心配がなく、よく整備された清潔な日本の環境を気に入り、改めて日本に行きたいと思い始めた。夫婦は2020年12月に査証申請を行い、翌年4月には日本で就労する予定だったが、2020年12月28日に日本政府が査証申請の受付を一時停止したことで、それは実現しなかった。
夫婦ともに、大学卒業後は化学関係の調査や研究の仕事に携わり、エリカさんは日本への旅行前に退職し、現在まで就職していない。レアンドロさんは、今も米国の多国籍企業に勤務している。
「大学院で博士号を取得し、ブラジルで会社勤めをしてきましたが、給料はとても安く、生活費は高くなる一方です」と、ブラジルでの生活に先が見通せない。専門職を志して勉強してきたが、ブラジルでのサラリーマン生活は不安定で物価は上昇し続けるのに給料は上がらない。
「サンパウロの自宅から勤務する工場まで、車で片道2時間以上かかります。しかし、交通費は会社から30パーセントしか支給されません。ガソリン代は高騰するし、肉や野菜も値上がりしています。とても安心して子供を産み育てられる状況でもありません」と話す。
新たな書類「審査済証」の壁
エリカさんは、父親のいとこが福井県と愛知県で長年働いて暮らしており、本人は福井県か島根県での勤務を希望している。レアンドロさんは、日本のアニメがずっと好きで、日本を旅行した時も人々がとても親切で、すっかり日本に魅せられた。夫婦ともに外国語は英語しかできず、日本語はあいさつ程度だが、日本文化には興味津々の様子。日本語を学び、日本で友人を作ることにも前向きだ。
「新たに必要とされた『審査済証』を取得するのにとても手間がかかります。また、1年前に査証申請のために用意した書類の有効期限も切れて使用できないのではないかと、同じ状況にある人は皆心配しています」。エリカさんはパンデミックがさらに落ち着くのを願いつつ、日本政府の今後の方針に希望を託す。(大浦智子記者、続く)