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ナポリ民謡で日本移民歌う=クラシック民謡「蒼茫 さらば神戸」=浅川・伊佐山さんが制作

伊佐山さん

伊佐山さん

 ♪船は出て行く神戸の港 鳥は飛び立ち別れ歌う――。そんな移民の旅立ちをテーマにした新曲「蒼茫 さらば神戸」を、浅川文恵さん(52、北海道)=兵庫県西宮市=がナポリ民謡のメロディに乗せて歌っている。歌詞は、若い頃神戸に住んでいた作詞家の伊佐山紫文さん(51、大分)=兵庫県伊丹市=が手がけた。
 「今回この歌詞を歌うことで、初めて大勢の方が神戸からブラジルに渡られたと知った」という。北海道生まれの浅川さんは「私の祖父母は本土からの移住者。伊佐山さんの母も外地からの引き揚げ者と、戦前の移民政策とは無縁ではない」とし、自らの出自を見直すきっかけにもなったようだ。
 「日本で歌ってもあまり理解してもらえないかも。ぜひ移民された方たちにお届けしたい」と考え、本紙に宛てて同曲が収録されたCD「つながり」を投函した。3月にできたばかりの新曲で、コンサートでも未発表。当地在住者も鑑賞できるようユーチューブ(www.youtube.com/watch?v=NqY8wTDB0c8)にアップされている(同サイトで「浅川文恵」と入力して検索)。

 二人は世界のクラシック名曲を、オリジナルの日本語歌詞で歌う新ジャンル「クラシック歌謡」の提唱者。数年前、日本人の観客の前で外国の原語で歌唱することに疑問を抱き、ドイツ・リート、オペラ・アリアなどの芸術歌曲に伊佐山さんが手がけた歌詞をつけて歌い始めたのがきっかけ。透明感溢れる歌唱に日本情緒溢れる歌詞が良く合うと、各地のコンサートで好評を得ているという。
 「美しいメロディが気に入ったので、日本的な歌詞をつけて」とナポリ民謡への作詞を依頼された伊佐山さんは、「初めて楽曲を聴いた時、若い頃に読んだ石川達三の『蒼氓』を思い出した」と語る。愛媛大学大学院理学研究科中退後、編集者、フリーライター、小説家などを経て、現在劇作家・作詞家を生業とする。主に浅川さんからの依頼で芸術歌曲への作詞やオペラの脚本を書いている。

 同曲は、神戸で働いていた際に訪れた神戸移住センター(現「海外移住と文化の交流センター」)から見えた景色を思い出し、移民の心情を想像しながら作ったという。「現在、日本ではブラジルといえばW杯の報道一色だが、日本国内の諸事情から移民となった人々とその子孫の存在を忘れてはならない」との想いも込められている。
 今年、大阪音楽大学短期大学部卒業したばかり。各地で精力的にコンサート活動を行う浅川さんは、「これから様々なイベントで歌っていきたい。機会があれば、もっと長いブラジル移民の叙事詩を作り、歌ってみたい」と語った。
 ブラジルに来たイタリア移民150万人のうち、南部出身者はみなナポリ港から出向した。そんなナポリ地方の民謡に、日本移民の歌詞をのせて歌うとは、実にブラジルに縁のある組み合わせといえそうだ。