ホーム | 連載 | 2014年 | 在日伯人子弟の教育向上に=両側で教員養成講座に協力 | 在日ブラジル人子弟の教育向上に=両側で教員養成講座に協力=(下)=日伯大学が連携して遠隔授業=ブラジル人学校のレベル底上げ

在日ブラジル人子弟の教育向上に=両側で教員養成講座に協力=(下)=日伯大学が連携して遠隔授業=ブラジル人学校のレベル底上げ

 日本で仕事をしないかと声をかけられたとき、「04年に初めて日本を訪れた際、富士山が見られなかった心残りから、内容も確かめずに、富士山が眺められるところに住めるなら、と二つ返事で決めた」と笑う。
 だが思い描いていた先祖の故郷と、実際生活する違いに格闘する日々だった。在日子弟の教育に関し山積する課題にも積極的に関わり、12年末から近畿大学ハタノ・リリアン・テルミ准教授らが中心となって開催する「日伯教育フォーラム」にも協力してきた。
 全体の事業をふりかえり、「有資格の教育者を養成するという意義もあったが、すでに現場に身をおく人たちが、学術的な方法論にのっとって残した研究成果も、コミュニティにとって意義が大きかった」と語る。 帰伯し、ひと仕事やりきったという達成感に浸りながらも、当地で、これまでの経歴を活かし、自分がなすべきことをしたいと意気込む。
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 卒業生のひとり、村元エリカさんは日系人である夫とも01年に訪日した。群馬県でポルトガル語教師として教育分野での経験を重ね、07年より同県玉村町の教育委員会で外国人児童生徒の教育支援員として活躍する。当地で日本の高校の課程に相当する教員養成を修了していたが、「この講座は日本で活躍の幅を広げるため、大学院に進学することを後押ししてくれた」という。
 学生募集がはじまったときから「教育現場にいる、目的ある人たちが集まるのだから、日本におけるブラジルおよび外国人子弟の教育の将来に変革が起こせると感じた」と語り、在学中、仲間とともに紙芝居プロジェクトを立ち上げ、教材開発などにとりくんだ。
 異なる文化の狭間で育つ子どもたちの教育は、研究の途にある。小学校入学時に、語彙の少なさが、発達障害などと判断され、特別級に入るよう勧められるケースもあるほどだ。同講座卒業生からは、子どもたちの学習上の困難など、日本に生きる子どもたちが抱える問題への理解が深まったなどとの声があがる。
 責任者を務めたマット・グロッソ連邦大学のカチア・モロゾフ・アロンソ教授は、「これまでの職歴のなかでいちばん挑戦的な仕事だった」と振り返った。二国の大学が二言語でやり取りしながら、最新の通信技術を駆使し、遠隔教育のコースをまとめ上げるのは大変な作業だったに違いない。
 卒業生に期待するのは「外国人労働者の子弟たちが多文化な環境で就学し、市民教育を受けることの意義について議論を深め、そんな教育を実現する実践者として活躍すること」だ。卒業生のなかには、世界の教育格差の課題に取り組もうと第三国へ渡った人もいるという。
 新規開講の要望もあったが、費用があまりに高いことから継続はないそうだが、蒔かれた種がどのように芽生えるか、今後の展開が注目される。(終わり、宮ケ迫ナンシー理沙記者)