【神戸新聞】元ヴィッセル神戸ユース監督で日系ブラジル人二世のネルソン松原さん(62)=神戸市長田区=が、サッカーと歩んだ半生を本にまとめた。ブラジルの路地でボールを追いかけて育ち、日本に本場のプレースタイルやフットサルを広めた。
本は「生きるためのサッカー ブラジル、札幌、神戸 転がるボールを追いかけて」(サウダージ・ブックス刊、税抜き1800円、240頁)。流転の半生は日本のサッカー史とも重なる。
祖父母や両親がブラジルへ渡ったネルソンさん。17歳でプロチームのテストに誘われたが、両親の希望で体育大へ進んだ。転機は21歳のとき。両親の故郷・北海道の札幌大が募った初のサッカー留学生として、未知の〃祖国〃に来た。
「戦術は長いボールを蹴り、それを追って走るだけだった」というチームに本場のパスサッカーを伝授。今につながる変革を日本サッカーにもたらした。
日本に初めてフットサルも紹介。同じく日系二世のサッカー解説者セルジオ越後さん(68)らと各地で講習会を開いた。その後も高校やJリーグ発足前の社会人リーグなどで指導者を務めた。
神戸の地を踏んだのは、阪神・淡路大震災直後の1995年3月。ヴィッセル神戸ユースのコーチに就き、がれきの街で「やれることをやるしかない」と練習場所を探し歩いた。
現在は、日系ブラジル人の妻マリナさん(60)が理事長のNPO法人「関西ブラジル人コミュニティ」で、日本在住のブラジル人を支援している。
活動拠点の「海外移住と文化の交流センター(旧国立移民収容所)」(神戸市中央区)は82年前、神戸港から旅立った祖父母や父が日本での最後の日々を過ごした場所だ。「不思議な気持ちだね」と穏やかな表情で語る。
故郷ブラジルで始まった64年ぶりのW杯。「わくわくする。ブラジルと日本が対戦したら? ブラジルを応援するかな」と少年のように笑った。(文・黒田勝俊)