先週レシフェで行われた日本代表の初戦後、会場でごみ拾いする日本人サポーターの姿を「素晴らしい模範」と伯字紙サイトが大きく報じ、世界から賞賛を浴びた。日本人が応援に使ったゴミ袋にせっせとごみを集める様子がネット上に投稿され、瞬く間に広がったようだ▼米国メディアも「遠方から訪れて敗戦した以上、頭を垂れてそのまま会場を去ってもおかしくない」と驚いた様子だ。きっと日本代表が勝っていても、彼らは同じように掃除をしただろうが、チームの敗北がその行為を一層価値あるものにした。勝ち負けという表面的な尺度を軽く超えてしまう〃試合〃にかける日本的精神性がそこに際立った▼スポーツを通した人格向上を重んじる柔道や剣道とは対照的で、サッカーは弱肉強食の自然界に近いとよく思う。「伯代表が早々に負けたら、抗議行動が活発化して町が荒れそう」などという会話が当たり前になされること自体、いかに多くの人が価値を勝ち負けに置いているかが分かる▼サッカーの場合は熱狂的ファン同士が罵り合い、ケンカするのが常態化しているだけに、日本人サポーターの行為は世界に大きな衝撃をもたらしたに違いない。「最近の若者は…」と新人類扱いされる日本の若者だが、失われているかに見えた伝統はちゃんと静かに息づいている▼近年、こうした日本文化の奥深さに惹かれ、日本伝統芸能や武道を始める非日系も増えている。軍事力や経済力ばかりが国力の尺度となる現代だが、こうした若者が増えれば世界は大きく変わるかも――。日本代表の敗戦の裏に感じたのは、そんなひそやかな日本文化の勝利だった。(阿)