イトゥ滞在中、ホテルに洋服のクリーニングを頼んだ。当日仕上がりのはずが、翌日、チェックアウトの時になっても「まだ」という。フロントの女性は申し訳なさそうな顔で「届き次第、すぐにサンパウロのホテルに郵送する」と言ってくれた。
3日たった。届かない。確認の電話をすると、別のフロント係が「ここにありますけど、何か?」。催促しなければ一生手元には戻らなかったのではないか。「私に任せて」と親指を立てた女性の笑顔を思い出し、この時ばかりは腹が立った。
現地の日本人には「ブラジルではそんなことばかりですよ」と笑い飛ばされた。おそらくみんな悪意はない。単純に「のんびりしていて、ルーズなだけ」という。この国で生活するには、ゆったりとしたペースに身を任せるのが肝要らしい。
W杯は佳境を迎えたが、ブラジル代表は盤石の態勢とは言い難い。もし敗退したら過激な暴動が起きないか心配してしまうが、現地日系人に言わせれば、「みんなその日はシュンとして、翌日はさっさと現実に戻っていますよ」とのこと。
どこまでも陽気で自由な人々の悲しい顔は見たくない。彼らが最後に、我を忘れて踊りまくる姿を見てみたい。(ブラジル・サンパウロ=静岡新聞特派員・南部明宏)