「それと時を同じくして『日蓮』が『天台宗』の一つの経典である『法華経』の中で、晩年のお釈迦さまが『ここに説く教えこそ、最も大切である』と述べておられるのに注目して、これ以外は不要ではないかと説く『日蓮宗』を開き、『法華経』の『妙法蓮華経』に帰依する意の『南無妙法蓮華経』七字に簡素かした題目を唱えれば字が読めない農民や一般人でも成仏出来ると説き広めました。この二人に代表される十二世紀の僧侶達によって、今まで朝廷や上流社会のものであった仏教は庶民にも広く広がりました」
「なるほど」
《なるほど》先駆者達も聞き入った。
「今日の慰霊祭に採用させていただいた『日蓮宗』の教えは、現実界の問題は人間自体が解決しなくてはならないと説き、それを助け補佐する為にお題目を唱えれば土や沼の中から菩薩さまが湧き出てくるとしました。それは、武士や農民、つまり土に生きる民衆を意しています。・・・、そして、今日、どなたかが持ってこられたアマゾンの蓮はその象徴です。蓮は泥沼から湧き出て、一片の汚れも寄せ付けず、周辺を美しく照らす大輪の花です。正に、土の中から湧き出た菩薩さま達を象徴します。・・・、それで、本日の法要は土に生き、土と闘って来られた先駆者に因んで『南無妙法蓮華経』を皆さんと共に唱え、慰霊祭を行いました。仏を信じ崇めるならば、悩みから己を解放し、心を落着かせ、将来が開けます。そして、きっと極楽浄土へ、と・・・」
「仏教とは、・・・、そうなんだ」
「未熟な説法をご静聴していただき、ありがとうございました」
中嶋和尚の初めての説法に慰霊祭には似合わない大きな拍手が沸いた。
慰霊祭は時間通り正午に終わった。
宗教を無視し続けたアマゾンの大自然が、やっとトメアス無仏地帯の一角に仏教の教えを迎え入れた。
西谷は、また一回り大きな僧侶となった中嶋和尚を見て、微笑んだ。
第十一章 宴会
百人以上に膨れ上がった参列者全員が西谷達に無断で宴会の準備を始めた。
幅三十センチ、厚さ一インチ、長さ三メートルの立派な板が多数持ち込まれ、長い机や椅子が要領よく組み立てられた。
「ビール足りるかこれで!」
「町中のビールを集めるんだ」
「いいピンガ(サトウキビが原料の地酒)が家にあるぞ」
「コップが足らないぞ!」
お祭り騒ぎで宴会の準備が進んだ。