ニッケイ新聞 2012年1月17日付け
2010年の国勢調査によると、正規雇用や所得の拡大でブラジル労働者の1週当たりの就労時間は段々短くなっているが、その一方、60歳を越えても働く人は10年間で65%増えたと16日付エスタード紙が報じた。
地理統計院(IBGE)が2000年調査と比べた結果、週45時間以上働く労働者は44%から28%に減少。1日9時間以上働く人は500万人減ったという。
就労時間数別に見ると、週45〜48時間働く人は17・2%から12・7%、49時間以上働く人は26・9%から15・4%に減少。
一方、40〜44時間働く人は33・6%から46%に増加。15〜39時間働く人は19・3%から17・5%に減ったが、14時間以下という人は3%から8・3%に増え、就労時間の減少傾向は明らかだ。
この傾向は、00年には36%だった正規雇用が10年には44%に増え、非正規雇用は24%から18%に低下した事やそれに伴う所得向上、雇用主が経費増加を嫌う事などに起因する残業減少にも関係。配達員全員を正規雇用し、13カ月給や休暇も保証され、前の店より給料も増えたと喜ばれているサンパウロ市のピザ屋などは良い例だ。
正規雇用が定着しているのはリオやサンパウロ州、サンタカタリーナ、連邦直轄区で、労働者の半数以上が正規雇用。だが、マラニョンの正規雇用者は未だ20・8%など、地域格差が大きい。
また、経済発展や労働条件の改善で女性就労者が増えた事も就労時間減少に影響。ピアウイやパライバ、セアラでは女性就労者が男性を上回っている。男女の賃金格差解消は、今後の課題だ。
一方、平均寿命の伸びや少子高齢化で、60歳を過ぎても仕事を継続、子育て後に再就職という人も増え、00年は330万人だった60歳以上の就労者は540万人。国際的な金融危機以降、経験が重視され始めたことや熟練者の不足に、何もせずに居るのを嫌う人の増加が重なったのも一因だが、生活費を得るための就労も多い。
生活費を得るための就労は、現在の年金制度では老後の生活を保障できないという問題にも繋がるが、それと同時に気になるのは、ブラジルの生活コストは米国以上という国際通貨基金の発表だ。
14日付エスタード紙によれば、レアル高によるドル経費増大に、コモディティなどの国際価格高騰とサービス費上昇、高インフレなどが重なるブラジルは、サウジアラビアなどの特例を除けば、米国以上に生活コストが高い唯一の新興国だ。
重税や工業生産率の低さ、手続きの煩雑さなどで国際的な競争力は中国などより落ちるといわれるだけに、生産性向上や生活コスト削減などを考えなければ、高齢化と生活費の上昇、裕福になる前に非工業化といった各種リスクが高まるとの懸念は否定できない。