ニッケイ新聞 2012年2月8日付け
最近のニュースを見ていると、この国はスゴイところだとしみじみ感じる。敵対文明から攻撃された訳でもないのに、リオの街中では20階建てのビルなど3棟が突然崩壊した。と思ったら、今度はサンパウロ市近郊のサンベルナルドでもビルの一部が崩れた▼特にリオの件では、爆風が吹き寄せる崩落現場の映像は9・11を連想させるものだった。入居者自らが壁や柱を撤去しすぎて建物全体のバランスが崩れて崩壊した〃自爆〃との見方が強いが、はっきりしない。多くのアパートで改修して壁を取り除き、勝手に窓を作っている。それが問題なら、リオの件は特殊事例ではない▼驚くのは、サントス市内の海岸部に立つアパート群には「ピサの斜塔」ばりに傾いているものが幾つかあることだ。その住人が床にボールを置くとコロコロと転がっていく様をニュースで見た。あれが倒れずに、まっすぐに立っているビルが崩壊するというのは、ガルシア・マルケスの文学のような不条理さだ▼バイア州都サルバドールでは軍警が妻子連れで州議会に立てこもって賃上げストを断行し、陸軍兵士が取り巻いた。火器携帯を許された公権力同士が相対するという構図は、法治国家における〃内乱〃的な絵だ▼恐ろしいのは、ストに入ってわずか1週間で同州内の殺人事件が激増して100人も殺害されたことだ。どれだけの犯罪予備軍がいるのかと想像するだけで空恐ろしくなる。社会に自然発生的な暴力欲求が渦巻いている▼社会全体が〃解放〃を求めているから同地カーニバルは爆発的なエネルギーに溢れている。明るすぎる音楽と踊りの裏にある、民衆の抑圧感を思うと気が遠くなる。(深)