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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年2月29日付け

 エロアー事件の裁判で驚いたのは、恋人に拳銃を向けて撃ったことを認めた犯人が法廷で証言した言葉だった。「彼女に拳銃を向けて撃ったけど、殺すつもりはなかった」。この言い分けが通用すると思っている青年の心理にショックを受けた▼絶縁を宣言された青年が元恋人に復縁をせまり、願いが叶わないなら殺すと脅している最中に、凄い数の警官に取り囲まれ、マスコミの生中継が始まった。三日三晩その状態が続いて睡眠不足と緊張感で頭がおかしくなったところに警官隊がドアを蹴破って進入、驚いて恋人を射殺したようだ▼若くてキレイな娘が死んだためか大報道されたが、基本的には痴話げんかであり、事件に社会の真相をえぐるものはない。むしろ、被害者エロアーの父親の人生にこそ興味が湧く▼アラゴアス州で敵対する政治家や警察官の暗殺を繰り返した秘密部隊の一員と目され、91年に指名手配されたが見事に逃げおおせ、サンパウロ市近郊で偽名を使って一般市民として生活していた▼逃亡生活中にエロアーが生まれ、父の荒んだ精神状態を潤したに違いない。彼女が15歳になった08年、事件は起きた。拳銃を突きつけられた愛娘を見た父親は気絶し、病院に運ばれた。その時の映像をテレビでみた関係者が、父の本当の姿を暴いた▼父が関与した事件の被害者は、元州知事の兄弟や捜査官など少なくとも4人以上いると報道されている。こちらの方がよほど社会の深い闇を反映した事件だ▼全伯に逃亡中の指名手配犯が何百、何千人いるか知らないが、多くは大都会の群集にまぎれて何気なく暮らしている。想像を絶するぐらいのドラマも、きっとそこには潜んでいる。(深)