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徳川宗賢賞に岡山大中東准教授=論文『アクセントの継承と変容』=パ国の広島系家族を調査

ニッケイ新聞 2012年3月21日付け

 【群馬県太田市発=池田泰久通信員】社会言語学の分野で優れた論文を発表した研究者を表彰する2011年度第11回徳川宗賢賞で、南米日系社会での言語調査を10年以上続けてきた岡山大の中東靖恵准教授(大学院社会文化科学研究科、広島県出身)がこのほど、最も高い評価となる優秀賞を受賞した。

 論文名は「パラグアイ日系社会におけるアクセントの継承と変容—パラグアイの広島県人家族を対象に—」(『社会言語科学』第13巻第2号P72〜87)。日本国内が中心だったアクセント研究を海外で取り組み、移住と言語変容という新たな研究領域を切り開いたことが高く評価された。
 中東准教授は大学の長期研修制度の一環で、09年4月から9月末まで南米に滞在し、同年8月、パラグアイ南部イタプア県のラパス、チャベス両移住地を訪れた。
 広島県出身の移住者とその二世、三世計44人を対象に「なみだ」「いのち」など200語以上の単語をもとに、面接形式で一人ひとりのアクセントを聞き取り調査した。
 その結果、中東准教授らが1993、94年に、広島市生育者を対象に世代別に分けて調査したアクセントの変容傾向と、ほぼ同じ傾向が見られた。具体的には、戦後パラグアイへ移住した同県人のアクセントが、パラグアイ生まれの子・孫世代にも継承されながらも徐々に変容していることが分かったという。
 特に両移住地で1970年代以降に生まれた二世、三世らのバイリンガルにおいては、広島県人特有のアクセントよりも、日本全国の共通語と同じアクセントを中心に話すことが初めて明らかになった。
 その要因として、80年代以降、パラグアイの日系移住地で日本のテレビ番組やビデオの視聴が広まり、その後インターネットが普及したことによって、若年層が日本の共通語に触れる機会が増えたのが大きい、とした。
 また、国際協力機構(JICA)による日本からの若い日本語教師の派遣などに伴う、日本語教育環境の充実化も挙げた。
 調査にあたり、移住地の交流イベントにも積極的に参加。「パラグアイの日系人の高い日本語能力とその学習意欲にとても驚かされた。調査にあたっては、パラグアイ広島県人会の方々には大変お世話になった。賞を頂けたのも皆さんのおかげです」と笑顔で振り返った。
 中東准教授によると、広島県人のパラグアイ移住者は486人(1952〜93年)で、全国で6番目。そのほとんどが55〜60年ごろの戦後移住者という。