ニッケイ新聞 2012年3月24日付け
ワシントンのポトマック公園の櫻が今—見事に咲き誇っている。あの「世界の櫻」は、東京の市長だった尾崎行雄市長が、当時の米大統領夫人ヘレン・タフトさんの要請に応えて東京荒川堤の櫻を穂木にして伊丹市の台木を使い興津園芸試験場で接ぎ木したものだ。6040本かを横浜から積み出したのが始まりだが、それが立派に育ち日米友好のシンボルとなり、東京とワシントンの交流は今も続く▼このポトマック川の岸辺に咲く櫻の背景には、アメリカの二人の博士と「日本での人力車旅行」の著書で知られるエリザ・シドモアさんらの秘話がある。3人とも日本の櫻が大好きで日本から苗木を取り寄せ自宅の庭に植えて櫻吹雪を楽しみ、「観桜会」を開き—「野点」のお茶の会も大変な人気だったそうだ。そして、エリザさんが大統領夫人にワシントンに櫻をと薦め日本への寄贈をお願いする話しに発展したらしい▼尤も、雄弁家であり政界のご意見番であった尾崎行雄市長も、最初に贈った苗木がワシントンに到着したときには、害虫がびっしりつき焼却処分になるの失敗もあったし、それが接ぎ木と結びついた。そして、今から100年も昔の1912年(明治45年)3月27日に最初の2本がヘレン・タフト夫人と珍田捨巳大使夫人によって植樹され今日の「櫻まつり」となったのである▼ちなみに—珍田駐米大使は、戦前のブラシル公使だったが、昭和天皇の皇太子時代から仕え侍従長や枢密院顧問になり伯爵となった人である。そんな「ワシントンの櫻」が今年100周年を迎え盛大な祭典が開かれているのは何と嬉しく喜ばしい。(遯)