幾多の障害乗り越えて=全身麻痺の女性が博士号=多くの人に感動を与える
ニッケイ新聞 2012年5月11日付け
サンパウロ市イビラプエラにある現代美術館で9日、10年前に全身麻痺となった女性アーティストが、〃肉体のほかに〃と題した博士号論文を発表し、多くの人々に感動を与えたと9、10日付ブラジルメディアが報じた。
手も足も動かせず、話せない、視覚障害も起こし、食べ物を噛む事や飲み込む事さえできないのに、芸術や教育に携わり、サンパウロ総合大学(USP)の博士号取得という快挙を成し遂げたのは、46歳のアナ・アマリア・タヴァーレス・バルボーザさんだ。
2002年7月2日、USP芸術コミュニケーション学部(ECA)の修士論文発表の日に脳血管障害が起き、集中治療室に40日、一般病棟に4カ月入院した後に帰宅したが、理学療法など、必死の介護も、彼女の肉体的な機能を回復させる事はできなかった。
帰宅後は「死にたい」という言葉を繰り返したアナさんを支えたのは、文芸評論家でUSP教授だったジョアン・アレッシャンドレ・コスタ・バルボーザ氏とECA教授だったアナ・マイン・バルボーザさん夫妻。父親は2006年に亡くなったが、アナ・マインさんは9日の博士号授与式にも列席した。
食べる事も話す事も、自由に動く事もできないアナさんが発表した博士論文は、アソシアソン・ノッソ・ソーニョという施設で3年間、脳障害児6人に芸術を教えるという体験の中から生み出されたもので、1年がかりで書き上げた185ページの大作だった。
全身麻痺のアナさんのコミュニケーション手段は、瞬きや目の動きと、あごの動きで操作するコンピューター。シン(イエス)の時は目を閉じ、ノン(ノー)の時は上を見上げるという方法は、日常生活の中でも使われるが、論文の作成や発表時の質疑応答、博士号授与式での挨拶の言葉は、あごの下にあるセンサーで文字盤の文字を一字ずつ拾い、文を作るという作業を経て実現した。
論文発表時は、通常の論文発表の時とは違うタイミングで涙や笑い声、拍手が起きたという会場には、11歳の娘のアナ・リアさんも参加。
リアさんは会場でテレビ局のレポーターからインタビューを受け、「世の中には何にでも文句を言う人が沢山いるけど、母は文句なぞ言わず、努力に努力を重ねてこの栄冠を獲得したの」と誇らしげに答えていた。
アナさんは会場に詰め掛けた人々から万雷の拍手を受けたが、内容の濃い論文と共に彼女の生き様に感動を受けた人々は「どんな障壁も強固な意志には打ち勝てない」と題する文をブログに掲載するなどして、その感動を表している。