ニッケイ新聞 2012年6月5日付け
先日、たまたま乗ったタクシーの運転手がデカセギ帰りだった。
妻が三世で、10年日本にいたそうだ。日本の感想を聞くと、「すごく好きになった」。が、また行きたいかと尋ねると即否定し、「もうシェーガだね」と首を振った。
日本に住んだことのあるブラジル人に、「日本を気に入ったか」と尋ねると、皆一様に首を縦に振る。しかしその後話を聞くと、必ずしもそうではないとわかる。この運転手の彼にしてもおそらく後者が本音だろう。
記者も在伯1年少しになるが、「気に入ったか」と言われたことは数知れない。そのつど肯定するのは本当にそうだからというより、「ノン」と言えない強迫観念になぜか駆られるからだ。
長期に及んだ滞在の感想を一言でいえるはずがない。相互理解のためには表面的なことしかわからない質問をしても仕方がないと、いまさらながら身にしみた。(詩)