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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年6月19日付け

 ソクラテスの妻クサンチッペは、悪妻の見本のように語り継がれるが、この悪妻どのにも物凄く立派な台詞がある。「夫は若者らを相手に演説することにのみ熱心で家にはさっぱりお金をもってこない」ので顔を合わせれば一言か二言の文句がつい出てしまうのだと釈明する。なるほど、これなら大哲学者に嫌われようとも、悪妻の看板を引き下げるわけにも行くまい▼あのギリシャという国は、医学の祖ヒポクラテスを始め哲学や倫理学の専門家が多く、兎にも角にも議論が大好きな国民らしい。今回も国債を次から次へと発行し、おカネを使うだけ使い、残るのは借金だらけの悲喜劇を演じ欧州危機を引き起こし、世界の国々の経済や株式に悪しき影響を及ぼしたのは、ご承知の通りである。それでも、あの国には、独仏を軸とした欧州諸国が要求する「緊縮財政」に反対する政治集団が根強い力を誇っている▼だが、先の再選挙では、緊縮派の中道右派の新民主主義党が、緊縮反対の急進左派連合を破り勝利したのは喜ばしい。これでギリシャのユーロ離脱の危機は回避され、欧州連合(EU)からの支援が実施され、ギリシャの再建が進展すると期待したい。だが、ヨーロッパの借金大国は、スペインとイタリアもだし、国債価格は大幅な値下がり、利子はアルプスなみに高くなり、金融筋は右だ左だと大騒ぎしている▼だから—ギリシャが財政の引き締めに入っても、欧州危機が幕引きになったと見るのは早い。今は、欧州危機の拡大を阻止しているの段階であり、EUと先進7カ国の財務相が、緊縮財政をと訴えるのは当たり前なのである。(遯)