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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年7月12日付け

 「野沢菜をおすそ分けに…」と知人宅に行くと、相手が「漬物じゃないの?」と目を丸くした。それはそうだ。腰の高さほどもある株付きの青菜を抱えていったのだから。今週始め、イタチーバ・ミリンにある長野県人会の北澤重喜会長の家で行なわれた漬け込み作業を覗かせてもらい、収穫したばかりのものをお土産に頂いた▼油炒めやおひたしでも美味しいとか。菜っ葉そのものを食べるのは初めてのコラム子も早速、すき焼き風に炊いてみた。筋もなく、柔らかい茎を噛むとつゆが溢れ出る瑞々しさに驚いた。今回の訪問で知った作る過程が、今後の野沢菜をさらに味わい深くさせてくれそうだ▼しかし大変な作業だ。丁寧に洗った後、大人が数人入れそうな容器に、菜を重ね入れ、粗塩をかけ石を積み上げる。数日後には水を切り再度漬け込む。作業に当たるのは北澤一家ほか、同県人会のモジ支部の会員ら有志だが、年々その数は減っているという。採算が合うものでもなく会長の心意気が支えだが「来年やるかどうか分からない」との声も漏れた▼年間運営費の半額を得る機会にも関わらず、人材がおらず毎年ボランティアに頼りながら出店する京都会。野沢菜もみたらし団子も今週末に開催される『日本祭り』で楽しむことができる。その美味は、関係者の苦労で支えられている▼一方、三重県のNPO団体が日本酒を売り込みに参加する。福岡県もPR活動を行なうとか。もっとその数が多くてもいいし、そうあるべきだ。母県との窓口を標榜する県人会が、この場をどうして利用しないのだろう。ともあれ、それぞれの思いが込もった味を楽しみたい。(剛)