ニッケイ新聞 2012年8月15日付け
一度も里帰りしていない移住者に、ふるさとを訪ねてもらいたい—。来年迎える戦後移住60周年を記念し、サンパウロ新聞社、海外日系人協会主催で「ブラジル移住者里帰り訪日使節団事業」が実施される。9日午後、県連の事務所で記者会見が開かれ正式発表された。移住後概ね50年、一度も日本に帰国していないブラジル在住の移住者を対象に、来年3、4月に約3週間、一時帰国を叶えるもの。約30年前、サンパウロ新聞の記者だった竹内運輸工業株式会社(東京都三鷹市)の竹内政司社長(57、東京)は「若いときに世話になった日系社会に恩返しをしたいと思った」と、出資に至った理由を説明した。
ブラジルなど南米各国への移住者で、様々な事情で里帰りができない人に対してはもともと、日本政府が1967年から37年間、「海外日系人訪日団」を組織し、一時帰国制度を実施してきた。戦前移住者を中心に約750人が祖国の地を踏んだが、2005年の第37次を最後に補助金がなくなり、制度は打ち切られた。
そこで、同社が実施団体だった海外日系人協会に協力を依頼し企画。竹内運輸工業、株式会社タツミコーポレーション(竹内社長が経営)、竹内社長個人がスポンサーとなり、事業予算一千万円を出資する。
竹内氏は1977年から2年半、同紙で記者をした経験があり、現在も同紙東京支社に籍を置く。記者時代は笠戸丸移民や勝ち組の人々にも取材し、移民70周年と重なって「地鳴りがするような」(竹内氏)活気にあふれていたコロニアを日々目の当たりにした。
「日本にはない日本の姿を見せてもらった。あの頃の経験が人間としての基本となり、ずっと心の中に残っていた。(事業は)自分の夢の実現でもある」
海外日系人協会の岡野護事務局長(58、石川)は「昨今良い話がない中で一つの光。ぜひ成功させたい」、鈴木社長は「多くの応募者があれば、今後も継続できる枠組みをコロニアで作れれば」と、それぞれ意気込みを語った。
応募に当たっては、ブラジルに移住後概ね50年滞在、移住後日本に1度も帰国したことがない、渡航及び滞在中の健康に問題がない、訪日するための経費負担能力に乏しいことなどが条件。
募集人数は18〜20人で、応募受付は9月1日〜10月末。邦字紙等での募集と同時に、文協と県連が地方文協や県人会に連絡を取って該当者の推薦を行い、選考委員会が実施する書類選考などを経て、11月中には団員を決定する。
出発予定日は来年3月29日(帰国は4月18日)。サンパウロで結団式を行い、訪日後3日間は東京で歓迎行事、その後は各自が故郷を訪問。往復航空券、東京での滞在経費や食事代、海外旅行保険等以外は各自の負担となる。
問い合わせはサンパウロ新聞社企画室まで(電話=11・3347・2000/担当・古城)。