ニッケイ新聞 2012年9月28日付け
インターネットの動画が人権のみならず国や民族の感情をも侵害する問題に発展しつつある最中、26日、世界最大の検索エンジン、グーグルブラジル支部のファビオ・ジョゼ・シウヴァ・コエーリョ会長が、全国市長選の候補者の名誉を毀損する動画の取り下げに応じなかったことを理由に逮捕された。27日付伯字紙が報じている。
サンパウロ州の裁判所は25日、世界最大の動画サイト、ユーチューブの運営も手がけるグーグルに10日以内に同映画の削除を求める判決を下していた。その翌日の26日、グーグルのコエーリョブラジル会長が逮捕された。
同社は先週、南マット・グロッソ州選挙裁判所から、州都カンポ・グランデ市長選のアウシデス・ベルナル候補(進歩党・PP)を「女性に中絶を強要し、家庭内暴力を働いた男」と中傷する動画の取下げを求められていた。それに応じなかったため、同裁判所が同州での24時間のグーグルとユーチューブの運用差し止めとコエーリョ氏の逮捕命令を出した。グーグルは25日に上告を求めていたが却下されていた。
コエーリョ氏はサンパウロ州で逮捕後、連邦警察による事情聴取を受け、裁判所の召喚に応じて出頭することを引き換えにその夜、釈放された。
今回の全国市長選では、候補者への中傷動画が相次ぎ、問題となっている。アラゴアス州マセイオのロナウド・レッサ候補(PDT・民主労働党)は自身の顔写真を便器に置かれ、サンパウロ州プライア・グランデ市のアルベルト・ムロン候補(民主社会党・PSDB)は「ヒトラーが支持する候補」とのメッセージを書かれた。パラナー州クリチーバのグスターヴォ・フルエット候補は二つの中傷動画に訴えを起こし、取り下げの判決を得ている。
またグーグルブラジル支部は全国市長選のみならず、これまで21州で138件の裁判を起こされ、うち42件で有罪判決を受けている。だが、同社は「当社はネットにあげられる内容に責任は持たない」との立場を示し続けている。
このようなインターネット動画による名誉毀損の問題はもはや特定の個人に対してのみでなく、国家や民族全体に及ぶ事態となっている。
その顕著な例が、在米エジプト人の自称映画監督が作った自主制作映画『イノセンス・オブ・ムスリム』だ。イスラム文化を中傷したこの作品はネットにあがるやイスラム圏で物議を醸した結果、12日にリビアとエジプトで起こった米国大使館襲撃事件につながり、外交官4人が殺害される惨事となった。
これを受け米国政府は同映画のネットからの撤去を求めたが、裁判所から拒否された。それは、いかなる内容であれ政府がネット上に掲載されたものに干渉することは「表現の自由の侵害に値する」との世論が同国で強いからだ。
コエーリョ氏の逮捕は米国や英国のテレビや新聞でも即座に報じられ、国際的に大きな波紋を広げた。同氏の早期釈放は、国境を超えた大反響に選挙裁判所が慌て、釈放命令を出したからだと言われている。